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短くて心に残る詩

にじの歌

ー小川未明ー

こちらの森から
あちらの丘へ
にじが橋をかけた。

だれが、その橋
渡(わた)る。

からすが三羽(ば)に
乞食(こじき)が一人。

乞食はつえついて上がったが
からすは、あわてておっこちた。

落ちたからすはどこへいった。
夕焼けの空へ。

上がった乞食はどこへいった。
お星さまの世界へ。

にじが消えた。
にじが消えた。
下の町には火が点(つ)いた。

童謡

ー小川未明ー

みいちゃんみいちゃん、なぜ泣く、
青い空見て泣くんだ。
青い空見てなぜ泣く、
つばめの行方(ゆくえ)が悲しくて、
母(かか)を思うて泣くんだ。

古巣

ー小川未明ー

つばめが帰るとき
真紅(まっか)な美しい夕焼けに、
少年はらっぱを鳴らして
遊んでいた。
つばめがきたとき
家の周囲(まわり)を幾たびも飛びまわった。
すると、少年の吹いていたらっぱは
窓の下に捨てられて、
赤いさびがところどころに出ていて、泥に塗(まみ)れていた。

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管笛(くだぶえ)

ー小川未明ー

お母(かあ)火を燃すけえ。
そねえに燃さなくても温(あた)たけえないか。
だって今日は寒いもの。
寒いか、そんだらくべろえ。
明日(あす)、また出て薪(たきぎ)取ってくるわの
そう心配さっしゃんな。

  * * * * * *

お母(かあ)、燃えたぜ当(あ)たらっしゃい。
汝(われ)、やかましいそげなもの吹くなよ。
ごじゅうからがたくさんきていたぜの、
あっちの神社(おみや)の森にきていたぜの、
ほら鳴いているだろの、
俺(おら)のこの笛(ふえ)聞いて鳴いているだろの?
ふいふいふい
悲しく鳴る管笛(くだぶえ)。

あかい雲

ー小川未明ー

(一)

あかい雲、あかい雲、
西の空の紅(あか)い雲。
おらが乳母(うば)のおまんは、
まだ年若(としわか)いに、
嫁入りの晩に、
海の中に落ちて、
あかい雲となった。

(二)

おまん、おまん、
まだ年若(としわか)いに、
あかい紅(べに)つけて、
あかい帯しめて、
からこん、からこん、
げたはいて、
西のお里へ嫁にいった。
あかい雲、あかい雲、
西の空の紅(あか)い雲。

お星さま

ー小川未明ー

澄(すみ)ちゃん、澄(すみ)ちゃん、なにあげよう。
あのお星さま、とっておくれ。
あんまり高くて、とれません。
そんなら、あたいがとってみよう。

お星さま、お星さま、なにあげよう。
のどがかわいた、水おくれ。
あんまり遠くて、いかれません。
そんなら、わたしが下(お)りていこう。

子もりうた

ー小川未明ー

坊やはいい子だ、ねんねしな。
泣くないい子だ、ねんねしな。
月の光をながむれば、
母さん、父さん恋しいよ。
水の流れをながむれば、
母さん、父さん恋しいよ。
お守(もり)のお里は遠い国。
泣くと、わたしも泣きたいわ。
坊やはいい子だ、ねんねしな。
泣くないい子だ、ねんねしな。

三か月(みかづき)

ー小川未明ー

かまのような、お三か月(みかづき)、
早う、大きくなって、
お嫁入(よめい)りの晩に、
まるい顔出して、
雲のあいから、のぞいてみい。

冬の木立

ー小川未明ー

冬の木立(こだち)
しょんぼりと
寒かろう

蓑(みの)着(き)よ
合羽(かっぱ)着(き)よ
綿帽子(わたぼうし)かぶりょ

からすが
頭に止まった
かんざしのように止まった

止まったからす
なぜなぜなかぬ
いつまでなかぬ

風ふき鳥

ー小川未明ー

風ふき鳥(どり)
飛んでどこへゆく
海は暴(あ)れているぞ。

なんで鳴く
かあかあ
山も暴(あ)れているぞ。

あんなに高く
あんなに低く
後になり、先になり。

みんなから、きらわれて
鳴き鳴き
飛んでゆく。

黒い衣(べべ)を着かえて
こい。

金の帯をしめて
こい。

今度の世には
王さまにしてやるぞ。

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