声の或るもの、
――天子の如き!――
厳密に聴きとれるは
私に属す、
酔と狂気とを
決して誘わない、
かの分岐する
千の問題。
Terque quaterque
悦ばしくたやすい
この旋回を知れよ、
波と草本、
それの家族の!
それからまた一つの声、
――天子の如き!――
厳密に聴きとれるは
私に属す、
そして忽然として歌う、
吐息のように、
劇しく豊かな
独乙のそれの。
世界は不徳だと
君はいうか? 君は驚くか?
生きよ! 不運な影は
火に任せよ……
Pluries
おお美しい城、
その生は朗か!
おまえは何時の代の者だ?
我等の祖父の
天賦の王侯の御代のか。
Indesinenter
私も歌うよ!
八重なる妹(いも)よ、その声は
聊かも公共的でない、
貞潔な耀きで
取り囲めよ私を。
※第3、7、8連の表記は、原作と異なります。
※底本を角川書店「新編中原中也全集」とし、新字・新かなで表記しました。また、ルビは原作にあるもののみを( )の中に表示しました。編者。
おお季節、おお砦、
如何なる魂か欠点なき?
おお季節、おお砦、
何物も欠くるなき幸福について、
げに私は魔的な研究をした。
ゴールの牡鶏が唄うたびに、
おお生きたりし彼。
しかし私は最早羨むまい、
牡鶏は私の生を負うた。
この魅惑! それは身も心も奪った、
そしてすべての努力を散らした。
私の言葉に何を見出すべきか?
それは逃げさり飛びゆく或物!
おお季節、おお砦!
彼女は舞妓か?……最初の青い時間(おり)に
火の花のように彼女は崩(くずお)れるだろう……
甚だしく華かな市(まち)が人を喘がす
晴れやかな広袤の前に!
これは美しい! これは美しい! それにこれは必要だ
――漁婦のために海賊の唄のために、
なほまた最後の仮面が剥がれてのち
聖い海の上の夜の祭のためにも!
七月。レジャン街。
快きジュピター殿につづける
葉鶏頭の花畑。
――これは常春藤の中でその青さをサハラに配る
君だと私は知っている。
して薔薇と太陽の棺と葛のように
茲に囲われし眼を持つ、
小さな寡婦の檻!……
なんて
鳥の群だ、オ イア イオ、イア イオ!……
穏やかな家、古代の情熱!
ざれごとの四阿屋。
薔薇の木の叢(むら)尽きる所、蔭多きバルコン、
ジュリエットよりははるか下に。
ジュリエットは、アンリエットを呼びかえす、
千の青い悪魔が踊っているかの
果樹園の中でのように、山の心に、
忘られない鉄路の駅に。
ギターの上に、驟雨の楽園に
唱う緑のベンチ、愛蘭土の白よ。
それから粗末な食事場や、
子供と牢屋のおしゃべりだ。
私が思うに官邸馬車の窓は
蝸牛の毒をつくるようだ、また
太陽にかまわず眠るこの黄楊(つげ)を。
とにまれ
これは大変美しい! 大変! われらとやかくいうべきでない。
*
――この広場、どよもしなし売買いなし、
それこそ黙った芝居だ喜劇だ、
無限の舞台の連なり、
私はおまえを解る、私はおまえを無言で讃える。
彼の女は帰った。
何? 永遠だ。
これは行った海だ
太陽と一緒に。
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