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ランボー詩集〜飾画篇

2014/02/04

海 景

 
銀の戦車や銅(あかがね)の戦車、
鋼(はがね)の船首や銀の船首、
泡を打ち、
茨の根株を掘り返す。
 
曠野の行進、
干潮の巨大な轍(あと)は、
円を描いて東の方へ、
森の柱へ波止場の胴へ、
くりだしている、
波止場の稜は渦巻く光でゴツゴツだ。
 
 
 
 

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飢餓の祭り

 
   俺の飢餓よ、アンヌ、アンヌ、
    驢馬に乗って失せろ。
 
 俺に食慾(くいけ)があるとしてもだ
 土や礫(いし)に対してくらいだ。
 Dinn! dinn! dinn! dinn! 空気を食おう、
岩を、炭を、鉄を食おう。
 
 飢餓よ、あっちけ。草をやれ、
   音(おん)の牧場に!
 昼顔の、愉快な毒でも
   吸うがいい。
 
乞食が砕いた礫(いし)でも啖(くら)え、
 教会堂の古びた石でも、
 洪水の子の磧の石でも、
 寒い谷間の麺麭(パン)でも啖え!
 
 飢餓とはかい、黒い空気のどんづまり、
   空鳴り渡る鐘の音。
 ーー俺の袖引く胃の腑こそ、
   それこそ不幸というものさ。
 
 土から葉っぱが現れた。
 熟れた果肉にありつこう。
 畑に俺が摘むものは
 野蒿苣(のじしゃ)に菫だ。
 
   俺の飢餓よ、アンヌ、アンヌ、
   驢馬に乗って失せろ。
 
 
 
 

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幸 福

 
  季節(とき)が流れる、城寨(おしろ)が見える、
  無疵(むきず)な魂(もの)なぞ何処にあろう?
 
  季節(とき)が流れる、城寨(おしろ)が見える、
 
私の手がけた幸福の
秘法を誰が脱(のが)れ得よう。
 
ゴールの鶏(とり)が鳴くたびに、
「幸福」こそは万歳だ。
 
もはや何にも希うまい、
私はそいつで一杯だ。
 
身も魂も恍惚(とろ)けては、
努力もへちまもあるものか。
 
  季節(とき)が流れる、城寨(おしろ)が見える。
 
私が何を言ってるのかって?
言葉なんぞはふっ飛んじまえだ!
 
  季節(とき)が流れる、城寨(おしろ)が見える!

 

 

 

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彼女は埃及舞妓か?

 
彼女は埃及舞妓(アルメ)か?……かわたれどきに
火の花と崩(くずお)れるのじゃあるまいか……
 
豪華な都会にほど遠からぬ
壮んな眺めを前にして!
 
美しや! おまけにこれはなくてかなわぬ
ーー海女(あま)や、海賊の歌のため、
 
だって彼女の表情は、消え去りがてにも猶海の
夜(よる)の歓宴(うたげ)を信じてた!

 

 

 

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最も高い塔の歌

 
何事にも屈従した
無駄だった青春よ
繊細さのために
私は生涯をそこなったのだ、
 
おお! 心という心の
陶酔する時の来らんことを!
 
私は思った、忘念しようと、
人が私を見ないようにと。
いとも高度な喜びの
約束なしには
 
何物も私を停めないよう
厳かな隠遁よと。
 
ノートルダムの影像(イマージュ)をしか
心に持たぬ惨めなる
さもしい限りの
千の寡婦(かふ)等も、
 
処女マリアに
祈ろうというか?
 
私は随分忍耐もした
決して忘れもしはすまい。
つもる怖れや苦しみは
空に向って昨日去(い)った。
 
今ただわけも分らぬ渇きが
私の血をば暗くする。
 
忘れ去られた
牧野ときたら
香(かおり)と毒麦身に着けて
ふくらみ花を咲かすのだ、
 
汚い蠅等の残忍な
翅音(はおと)も伴い。
 
何事にも屈従した
無駄だった青春よ、
繊細さのために
私は生涯をそこなったのだ。
 
ああ! 心という心の
陶酔する時の来らんことを!

 

 

 

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永 遠

 
また見付かった。
何がだ? 永遠。
去(い)ってしまった海のことさあ
太陽もろとも去(い)ってしまった。
 
見張番の魂よ、
白状しようぜ
空無な夜(よ)に就き
燃ゆる日に就き。
 
人間共の配慮から、
世間共通(ならし)の逆上(のぼせ)から、
おまえはさっさと手を切って
飛んでゆくべし……
 
もとより希望があるものか、
願いの条(すじ)があるものか
黙って黙って勘忍して……
苦痛なんざあ覚悟の前。
 
繻子の肌した深紅の燠(おき)よ、
それそのおまえと燃えていりゃあ
義務(つとめ)はすむというものだ
やれやれという暇もなく。
 
また見付かった。
何がだ? 永遠。
去(い)ってしまった海のことさあ
太陽もろとも去(い)ってしまった。

 

 

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忍 耐

 
           或る夏の。
 
菩提樹の明るい枝に
病弱な鹿笛の音は息絶える。
しかし意力のある歌は
すぐりの中を舞いめぐる。
血が血管で微笑めば、
葡萄の木と木は絡まり合う。
空は天使と美しく、
空と波とは聖体拝受。
外出だ! 光線(ひかり)が辛いくらいなら、
苔の上にてへたばろう。
 
やれ忍耐だの退屈だのと、
芸もない話じゃないか!……チェッ、苦労とよ。
ドラマチックな夏こそは
『運』の車にこの俺を、縛ってくれるでこそよろし、
自然よ、おまえの手にかかり、
ーーちっとはましに賑やかに、死にたいものだ!
ところで羊飼さえが、大方は
浮世の苦労で死ぬるとは、可笑(おか)しなこった。
 
季節々々がこの俺を使い減らしてくれればいい。
自然よ、此の身はおまえに返す、
これな渇きも空腹(ひもじさ)も。
お気に召したら、食わせろよ、飲ませろよ。
俺は何にも惑いはしない。
御先祖様や日輪様にはお笑草でもあろうけど、
俺は何にも笑いたかない
ただこの不運に屈托だけはないように!

 

 

 

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若夫婦

 
部屋は濃藍の空に向って開かれている。
所狭いまでに手文庫や櫃!
外面(そとも)の壁には一面のおはぐろ花
そこに化物の歯茎は顫えている。
 
なんと、天才流儀じゃないか、
この消費(ついえ)、この不秩序は!
桑の実呉れるアフリカ魔女の趣好もかくや
部屋の隅々には鉛縁(なまりぶち)。
 
と、数名の者が這入って来る、不平面(づら)した名附親等が、
色んな食器戸棚の上に光線(ひかり)の襞(ひだ)を投げながら、
さて止る! 若夫婦は失礼千万にも留守してる
そこでと、何にもはじまらぬ。
 
聟殿(むこ)は、乗ぜられやすい残臭を、とどめている、
その不在中、ずっとこの部屋中に。
意地悪な水の精等も
寝床をうろつきまわっている。
 
夜(よ)の微笑、新妻(にいづま)の微笑、おお! 蜜月は
そのかずかずを摘むのであらう、
銅(あかがね)の、千の帯にてかの空を満たしもしよう。
さて二人は、鼠ごっこもするのであろう。
 
ーー日が暮れてから、銃を打つ時出るような
気狂いじみた蒼い火が、出さえしなけりゃいいがなあ。
ーー寧ろ、純白神聖なベツレヘムの景観が、
この若夫婦の部屋の窓の、あの空色を悩殺するに如(し)かずである!

 

 

 

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刃(は)が脳漿を切らないかぎり、
白くて緑(あお)くて脂(あぶら)ぎったる
このムッとするお荷物の
さっぱり致そう筈もない……
 
(ああ、奴は切らなきゃなるまいに、
その鼻、その脣(くち)、その耳を
その腹も! すばらしや、
脚も棄てなきゃなるまいに!)
 
だが、いや、確かに
頭に刃、
脇に砂礫(こいし)を、
腸に火を
 
加えぬかぎりは、寸時たりと、
五月蠅(うるさ)い子供の此ン畜生が、
ちょこまかと
謀反気やめることもない
 
モン・ロシュの猫のよう、
何処(どこ)も彼処(かしこ)も臭くする!
ーーだが死の時には、神様よ、
なんとか祈りも出ますよう……

 

 

 

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渇の喜劇

 
   Ⅰ    
 
    祖先(みおや)
 
私(わし)達はおまえの祖先(みおや)だ、
  祖先(みおや)だよ!
月や青物の
冷(ひゃ)こい汁にしとど濡れ。
私達(わしたち)の粗末なお酒は心を持っていましたぞ!
お日様に向って嘘偽(うそいつわり)のないためには
人間何が必要か? 飲むこつてす。
 
小生。ーー野花の上にて息絶ゆること。
 
私(わし)達はおまえの祖先(みおや)だ、
  田園に棲む。
ごらん、柳のむこうを水は、
湿ったお城のぐるりをめぐって
ずうっと流れているでしょう。
さ、酒倉へ行きますよ、
林檎酒(シードル)もあればお乳もあります。
 
小生。ーー牝牛等呑んでる所(とこ)へゆく。
 
私(わし)達はおまえの祖先(みおや。
  さ、持っといで
戸棚の中の色んなお酒。
上等の紅茶、上等の珈琲、
薬鑵の中で鳴ってます。
ーー絵をごらん、花をごらん。
私(わし)達は墓の中から甦(かえ)って来ますよ。
 
小生。ーー骨甕をみんな、割っちゃえばよい。
 
   Ⅱ     
 
    精神
 
永遠無窮な水精(みずはめ)は、
  きめこまやかな水分割(わか)て。
 
ヴィーナス、蒼天の妹は、
  きれいな浪に情けを含(こ)めよ。
 
ノルウェーの彷徨う猶太人(ユダヤじん)等は、
  雪について語ってくれよ。
 
追放されたる古代人等は、
  海のことを語ってくれよ。
 
小生。ーーきれいなお魚(さかな)はもう沢山、
     水入れた、コップに漬ける造花だの、
   絵のない昔噺は
     もう沢山。
 
   小唄作者よ、おまえの名附け子、
     水螅(ヒードル)こそは私の渇望(かわき)、
   憂いに沈み衰耗し果てる
     口なき馴染みのかの水螅(ヒードル)。
 
   Ⅲ     
 
    仲間
 
おい、酒は浜辺に
  浪をなし!
ピリッとくる奴、苦味酒(ビットル)は
  山の上から流れ出す!
 
どうだい、手に入れようではないか、
緑柱めでたきかのアプサン宮(きゅう)……
 
小生。ーーなにがなにやらもう分らんぞ。
   ひどく酔ったが、勘弁しろい。
 
   俺は好きだぞ、随分好きだ、
   池に漬って腐るのは、
   あの気味悪い苔水の下
   漂う丸太のそのそばで。
 
   Ⅳ     
 
    哀れな空想
 
恐らくはとある夕べが俺を待つ
或る古都で。
その時こそは徐(しず)かに飲もう
満足をして死んでもゆこう、
ただそれまでの辛抱だ!
 
もしも俺の不運も終焉(おわ)り、
お金が手に入ることでもあったら、
その時はどっちにしたものだろう?
北か、それとも葡萄の国か?……
ーーまあまあ今からそんなこと、
 
空想したってはじまらぬ。
仮りに俺がだ、昔流儀の
旅行家様になったところで、
あの緑色の旅籠屋が
今時(いまどき)あろうわけもない。
 
   Ⅴ     
 
    結論
 
青野にわななく鳩(ふたこえどり)、
追いまわされる禽獣(とりけもの)、
水に棲むどち、家畜どち、
瀕死の蝶さえ渇望(かわき)はもつ。
 
さば雲もろとも融けること、
ーーすがすがしさにうべなわれ、
曙(あけぼの)が、森に満たするみずみずし
菫の上に息絶ゆること!

 

 

 

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