淋しや淋し、わが心。なんの理由もなけれども 〜(淋しや淋し、わが心)
暮れゆく森は風を凪(な)ぎ、み空の中に沈みゆく。〜(
《不気味な程の静寂…… どんな嵐を呼ぶのやら 〜(不気味な程の静寂…)
元気です―― 時は春、京都は桃色、〜(元気です――)
汽車ゴーと鳴って 息絶えるも…… でも食堂は明るくってね 〜冬の夜汽車で
鹿がいるということは 鹿がいないということではない ー(鹿がいるということは)
夏が来た。空を見てると、旅情が動く。〜(夏が来た)
よくはれたれど、風ざわめきて、〜(よくはれたれど)
グランドに無雑作につまれた材木 ――小猫と土橋が話をしていた 〜夏の昼
恋の世界で人間は みんな 〜(恋の世界で人間は)
何故親の消息がないんだ? 何故(一字不明)が笑わないんだ? 〜(何故親の消息がないんだ? )
いろいろととやこう云われ、夜はくだち、夜の明け方に明星をみた 〜(日記より)
恋しくば 訪ね来てみよ ほととぎす 〜俳 句
霞とうごき、月影に、とおくゆすれて、われらが愛はでごのみ、
かぎりなく、わたしはさびしく、このごろは、暮しております。〜
秋の日の吊瓶落としや悲しさや 戦い終わり、蒼然と 〜(秋の日の吊瓶落としや悲しさや)
降る雪は いつまで降るか 〜戯 歌
冨倉の尻を小さくし 冨倉より軽い下駄をはかせ 〜(冨倉の尻を小さくし)
開いて、いるのは、あれは、花かよ? 〜薔 薇
ゴムマリか、なさけない ゴムマリか、なさけない 〜ゴムマリの歌
美しい扉の親しさに 私が室で遊んでいる時、〜春と恋人
少女がいま校庭の隅に佇んだのは 其処は花畑があって菖蒲の花が咲いてるからです 〜少女と雨
とど、俺としたことが、笑い出さずにゃいられない。
嘗(かつ)てはランプを、とぼしていたものなんです。
秋の夜に、独りで湯に這入(はい)ることは、淋しいじゃないか。
ああわれは おぼれたるかな 物音は しずみゆきて 〜(ああわれは おぼれたるかな)
僕は知ってる煙が立つ 三原山には煙が立つ 〜小 唄
空は晴れてても、建物には蔭があるよ、春、早春は心なびかせ、〜
形式整美のかの夢や 羅馬(ローマ)の夢はや地に落ちて、〜(形式整美のかの夢や)
風が吹く、冷たい風は 窓の硝子に蒸気を凍りつかせ 〜(風が吹く、冷たい風は)
此の年、三原山に、自殺する者多かりき。
宵の銀座は花束捧げ、舞うて踊って踊って舞うて、〜(
夜が更けて、一つの虫の声がある。〜虫の声
僕は奴の欺瞞に腹を立てている 奴の馬鹿を奴より一層馬鹿者の前に匿すために、〜怨 恨
夏の朝よ、蝉よ、 砂に照りつける陽よ…… 〜怠 惰
蝉が鳴いている、蝉が鳴いている 蝉が鳴いているほかになんにもない! 〜蝉
なんの楽しみもないのみならず 悲しく懶い日は日毎続いた。〜夏
友達よ、僕が何処にいたか知っているか? 僕は島にいた、島の小さな漁村にいた。〜夏過けて、友よ、
ふくらはぎを眺めながら 燃える血のことを思った。〜燃える血
温泉町のほの暗い町を、僕は歩いていた、ひどく俯いて。〜夏の記臆
しののめの、よるのうみにて 汽笛鳴る。〜童 謡
萎びたコスモスに、鹿革の手袋をはめ、それを、霊柩車に入れて、
夏の午前よ、いちじくの葉よ、葉は、乾いている、
小川が青く光っているのは あれは、空の色を映しているからなんだそうだ。〜(
かがやかしい朝よ、紫の、物々の影よ、〜朝
雀が鳴いている 朝日が照っている 〜朝
どうともなれだ 俺には何がどうでも構わない 〜玩具の賦
亡びてしまったのは 僕の心であったろうか 〜昏 睡
夜明けが来た。雀の声は生唾液(なまつばき)に似ていた。〜
雀の声が鳴きました 雨のあがった朝でした 〜朝
袖の振合い他生の縁 僕事、気違いには御座候えども 〜狂気の手紙
悲しみは、何処まででもつづく 蛮土の夜の、お祭りのように、その宵のように、〜咏嘆調
消えていったのは、あれはあやめの花じゃろか? 〜秋岸清凉居士
劃然とした石の稜 あばた面なる墓の石 〜月下の告白
さよなら、さよなら! いろいろお世話になりました 〜別 離
こんな悪達者な人にあっては 僕はどんな巻添えを食うかも知れない 〜悲しい歌
海は、お天気の日には、綺麗だ。〜(海は、お天気の日には)
お天気の日の海の沖では 子供が大勢遊んでいます 〜(お天気の日の海の沖では)
星は綺麗と、誰でも云うが、それは大概、ウソでしょう 〜野卑時代
何、あれはな、空に吊るした銀紙じゃよ こう、ボール紙を剪って、それに銀紙を張る、〜星とピエロ
ほのかにほのかに、ともっているのは これは一つの誘蛾燈、稲田の中に 〜誘蛾燈詠歌
なんにも書かなかったら みんな書いたことになった 〜(なんにも書かなかったら)
一本の藁は畦の枯草の間に挟って ひねもす陽を浴びぬくもっていた 〜(一本の藁は畦の枯草の間に挟って)
山に清水が流れるように その陽の照った山の上の 〜坊 や
僕には僕の狂気がある 僕の狂気は蒼ざめて硬くなる 〜僕が知る
おまえが花のように 淡鼠の絹の靴下穿いた花のように 〜(おまえが花のように)
それは実際あったことでしょうか それは実際あったことでしょうか 〜初恋集
木の下かげには幽霊がいる その幽霊は、生れたばかりの 〜月夜とポプラ
自然は、僕という貝に、花吹雪きを、
僕はもう、何も欲しはしなかった。暇と、
ウー……と、警笛が鳴ります、ウウウー……と、皆さん、
夜の海より僕唾(つば)吐いた ポイ と音して唾とんでった 〜大島行葵丸にて
生きているのは喜びなのか 生きているのは悲みなのか 〜春の消息
ゆめに、うつつに、まぼろしに…… 見ゆるは、何ぞ、いつもいつも 〜吾子よ吾子
桑名の夜は暗かった 蛙がコロコロ鳴いていた 〜桑名の駅
龍巻の頸は、殊にはその後頭は 老廃血(ふるち)でいっぱい 〜龍 巻
いとしい者の上に風が吹き 私の上にも風が吹いた 〜山上のひととき
山に登って風に吹かれた 心は寒く冷たくあった 〜四行詩
秋が来た。また公園の竝木路は、〜(秋が来た)
或る日君は僕を見て嗤うだろう、
松吹く風よ、寒い夜の われや憂き世にながらえて 〜夜半の嵐
山の上には雲が流れていた あの山の上で、お弁当を食ったこともある…… 〜雲
砂漠の中に、火が見えた! 〜砂 漠
その夜は雨が、泣くように降っていました。瓦はバリバリ、
しののめの、よるのうみにて 汽笛鳴る。〜小唄二編
(人と話が合うも合わぬも 所詮は血液型の問題ですよ)?… 〜断 片
雨を含んだ暗い空の中に 大きいポプラは聳(そそ)り立ち、〜暗い公園
夏の夜の、博覧会は、哀しからずや 雨ちょと降りて、やがてもあがりぬ 〜夏の夜の博覧会はかなしからずや
僕の夢は破れて、其処に血を流した。あとにはキラキラ、星が光っていた。〜(僕の夢は破れて、其処に血を流した)
秋の日は、干物の匂いがするよ 外苑の舗道しろじろ、うちつづき、〜干 物
いちじくの、葉が夕空にくろぐろと、風に吹かれて 〜いちじくの葉
醉客の、さわがしさのなか、ギタアルのレコード鳴って、〜カフェーにて
休みなされ、台所や便所の掃除こそ大事だなぞという教訓を、〜(
私の胃袋は、金の叫びを揚げた。水筒の中にはもはや、
そのうすいくちびると、そのほそい声とは 食べるによろしい。〜(そのうすいくちびると)
孤児の肌に唾吐きかけて、あとで泣いたるわたくしは 〜(孤児の肌に唾吐きかけて)
風のたよりに、沖のこと 聞けば 今夜は、可なり漁れそう、ゆっくり今頃夕飯食べてる。〜(
私のなかで舞ってるものは、こおろぎでもない、〜Qu'est-
抑制と、突発の間をいったりきたり、
夜の空は、広大であった。その下に一軒の酒場があった。〜
アセチリンをともして、低い台の上に商品を並べていた、〜夜 店
私の心の、『過去』の画面の、右の端には、女の額の、
雨の音のはげしきことよ 風吹けば ひとしおまさり 〜雨と風
雨の音のはげしきことよ 風吹けばひとしおまさり 〜風 雨
吹く風を心の友と 口笛に心まぎらわし 〜(吹く風を心の友と)
秋の夜に、僕は僕が破裂する夢を見て目が醒めた。〜(
支那というのは、吊鐘の中に這入っている蛇のようなもの。
われ等のジェネレーションには仕事がない。
月はおぼろにかすむ夜に、杉は、梢を 伸べていた。〜(月はおぼろにかすむ夜に)
ポロリ、ポロリと死んでゆく。みんな別れてしまうのだ。〜(
疲れやつれた美しい顔よ、私はおまえを愛す。〜(
生きのこるものはずうずうしく、
その夜私は、コンテで以て自我像を画いた 風の吹いてるお会式の夜でした 〜コキューの憶い出
傍若無人な、そなたの美しい振舞いを、その手を、
なあに、小児病者の言うことですよ、そんなに美しいあなたさえ 〜マルレネ・ディートリッヒ
私の部屋の、窓越しに みえるのは、エヤ・サイン 〜秋の日曜
ナイヤガラの上には、月が出て、雲も だいぶん集っていた。〜(ナイヤガラの上には、月が出て)
汽笛が鳴ったので、僕は発車だと思った。〜(汽笛が鳴ったので)
七銭でバットを買って、一銭でマッチを買って、――ウレシイネ、
それは一時の気の迷い、あきらめなされというけれど、〜(
僕達の記臆力は鈍いから、僕達は、その人の鬚(ひげ)
南無 ダダ 足駄なく、傘なく 〜(南無 ダダ)
頭を、ボーズにしてやろう 囚人刈りにしてやろう 〜(頭を、ボーズにしてやろう)
自然というものは、つまらなくはない、
月の光は音もなし、虫の鳴いてる草の上 〜(月の光は音もなし)
他愛もない僕の歌が 何かの役には立つでしょうか? 〜(他愛もない僕の歌が)
カワイラチイネ、おまえさんの鼻は、人間の鼻の模型だよ、〜嬰 児
宵に寝て、秋の夜中に目が覚めて 汽車の汽笛の音を聞いた。〜(宵に寝て、秋の夜中に目が覚めて)
今晩ああして元気に語り合っている人々も、
今晩ああして元気に語り合っている人々も、実は、
みまかりし、吾子はもけだし、今頃は 何をか求め、歩くらん?…… 〜こぞの雪今いずこ
私のなかで舞ってるものは、こおろぎでもない、〜Qu'est-
むかし、おまえは黒猫だった。いまやおまえは三毛猫だ、〜
三毛猫の主の歌える
疲れやつれた美しい顔よ、私はおまえを愛す。〜疲れやつれた美しい顔
多産婦よ 炭倉の地ベタの隅に詰め込まれろ! 〜退屈の中の肉親的恐怖
最早、あらゆるものが目を覚ました、黎明は来た。私の心の中に住む幾多のフェアリー達は、〜或る心の一季節
ああ、秋が来た 眼に琺瑯の涙沁む。〜秋の愁嘆
千の華燈よりとおくはなれ、笑める巷よりとおくはなれ、〜かの女
母は父を送り出すと、部屋に帰って来て溜息をした。彼の女の溜息にはピンクの竹紙。〜少年時
外燈に誘出された長い板塀、人々は影を連れて歩く。〜夜寒の都会
われ星に甘え、われ太陽に傲岸ならん時、人々自らを死物と観念してあらんことを! 〜地極の天使
疲れた魂と心の上に、訪れる夜が良夜であった‥‥‥ 〜無 題
私は出て来た、街に灯がともって 〜浮 浪
昨日は喜び、今日は死に、明日は戦い?…… 〜春の雨
屠殺所に、死んでゆく牛はモーと啼いた。〜屠殺所
暗い空に鉄橋が架かって、男や女がその上を通る。〜夏の夜
かつて私は一切の「立脚点」だった。かつて私は一切の解釈だった。〜処女詩集序
私の心よ怒るなよ、ほんとに燃えるは独りでだ、〜詩人の嘆き
面白がらせと怠惰のために、こんなになったのでございます。今では何にも分りません。〜聖浄白眼
私を愛する七十過ぎのお婆さんが、暗い部屋で、坐って私を迎えた。〜冬の日
・・・・・・・・・・ 在りし日よ、幼なかりし日よ! 〜幼なかりし日
いとけない顔のうえに、降りはじめの雨が、ぽたっと落ちた…… 〜間奏曲
夜霧が深く 冬が来るとみえる。〜秋の夜
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