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ー室生犀星ー
おれは水の音に聞きとれていた
微(かす)かなあるかないかの
噎(むせ)ぶような水の音であった
おれは誰かがななめに廊下を
くろ髪を垂れて過ぎるのを見とれていた
艶(つや)のある真黒なひとみだった
おれは石の数をかぞえていた
石は七つくらいしかなかった
よく見ると三つくらいしかなかった
なお よく見ると
ただの一つあるきりであった
おれはしかし遂に無数の
石の群がりに遮(さえ)ぎられていた
石はみな怒り輝いていた
石はみな静まり返っていた
石はみな叫び立とうとしていた
ああ 石はみな天上に還(かえ)ろうとしていた
(「鉄集」より)
<ぜひ読んでおきたい! 心に残る短い詩>
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