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誰かをさがすために

ー室生犀星ー

きょうもあなたは

何をさがしにとぼとぼ歩いているのです、

まだ逢ったこともない人なんですが

その人にもしかしたら

きょう逢えるかと尋ねて歩いているのです、

逢ったこともない人を

どうしてあなたは尋ね出せるのです、

顔だって見たことのない他人でしょう、

それがどうして見つかるとお思いなんです、

いや まだ逢ったことがないから

その人を是非尋ね出したいのです、

逢ったことのある人には

わたくしは逢いたくないのです、

あなたは変った方ですね、

はじめて逢うために人を捜しているのが

そんなに変に見えるのでしょうか、

人間はみなそんな捜し方をしているのではないか、

そして人間はきっと誰かを一人ずつ、

捜しあてているのではないか。

 

(「女ごのための最後の詩集」より)

<ぜひ読んでおきたい! 心に残る短い詩>

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