ー萩原朔太郎ー
白雲のゆききもしげき山の端に
旅びとの群はせわしなく
その脚もとの流水も
しんしんめんめんと流れたり
ひそかに草に手をあてて
すぎ去るものをうれいいず
わがつむ花は時無草の白きなれども
花びらに光なく
見よや空には銀いろのつめたさひろごれり
あわれはるかなる湖うみのこころもて
燕雀のうたごえも消えゆくころおい
わが身を草木の影によこたえしに
さやかなる野分吹き来りて
やさしくも、かの高きよりくすぐれり
(大正二年九月)
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