ー立原道造ー
やがて 秋が 来るだろう
夕ぐれが親しげに僕らにはなしかけ
樹木が老いた人たちの身ぶりのように
あらわなかげをくらく夜の方に投げ
すべてが不確かにゆらいでいる
かえってしずかなあさい吐息のように……
(昨日でないばかりに それは明日)と
僕らのおもいは ささやきかはすであろう
――秋が こうして かえって来た
そうして 秋がまた たたずむ と
ゆるしを乞う人のように……
やがて忘れなかったことのかたみに
しかし かたみなく 過ぎて行くであろう
秋は……そうして……ふたたびある夕ぐれに――
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