ー伊東静雄ー
われは叢(くさむら)に投げぬ、熱(あつ)き身とたゆき手足(てあし)を。
されど草いきれは
わが体温よりも自足(じそく)し、
わが脈搏(みゃくうち)は小川の歌を乱しぬ。
夕暮よさあれ中(なか)つ空に
はや風のすずしき流れをなしてありしかば、
鵲(かささぎ)の飛翔の道は
ゆるやかにその方角をさだめられたり。
ああ今朝(けさ)わが師は
かの山上に葡萄を食(しょく)しつつのたまいしか、
われ縦令(たとい)王者にえらばるるとも
格別不思議に思わざるべし、と。
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