ー三好達治ー
七月は鉄砲百合(てっぽうゆり)
烏揚羽(からすあげは)がゆらりと来て
遠い昔を思わせる
七月はまた立葵(たちあおい) 色とりどりの
また葡萄棚(ぶどうだな) 蔭(かげ)も明るい
彼方(かなた)の丘の松林 松の香りに蟬の鳴く
こんな明るい空のもと
昔の人はどこへいったか
忘れたふりはしているが
風だから声はやまぬか
来ただけはどこやらへゆく
その道の上 七月のまっ昼ま
まてしばし
烏揚羽がゆらりと来て
艶(えん)な喪服(もふく)をひるがえす
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