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ー立原道造ー
それは雨のはげしい夜だった
私たちは火鉢のそばでその物音に
もう話のなくなった耳を借していた
一つも聞き洩らすことのないように
雨が何を語ったか 私たちが何を語ったか
誰もがそれを忘れていた ふだんのように
長い長いしずかさだった
おそらく あの夜 空に消えた千の雨粒
私たちは光りながら死ぬのだろうと
誰が誰に小声で語ったのだろうか
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