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ー萩原朔太郎ー
いろ青ざめて谷間をはしり、
夕ぐれかけてただひとり、
岩をよじのぼれるの手は鋼鐵(はがね)なり、
ときすべて液体空気の触覚に、
山山は茜(あかね)さし、
遠樹(とおき)に光る、
わが偏狂の銀の魚、
したたるいたみ、
谷間を走りひたばしる、
わが哀傷の岩清水、
そのうすやみのつめたさに、
やぶるるごとく歯をぬらす、
やぶるるごとく歯をぬらす。