やってくる男
ー高祖保ー
あと一日の九月が 一瞬に
濁った珈琲(コーヒー)いろの雨の中に沈んだ
雨水の灌奠(かんてん)
沁(し)みる
傘
軽尻(からしり)の性根(しょうこん)を雨に洗ってゆこう
溝水のひびきは現象の悲鳴
きょう わが卓子(テーブル)のうえに
きのうの「歌」と「非情」と「凡心」の窒死…
暗闇から
初秋の傘の匂いがジンと沁みる
重い感覚は 昨日の室(へや)に
あの鍵の音と倶(とも)におさらばとしよう
未来にかかわりのない 生理は
一切合財(いっさいがっさい) この傘の
あたらしい背を闇に飛ぶ このしぶきであれ
まさに 現象の秤(はかり)のうえで
貪婪(どんらん)に
「今日」と「昨日」とが撓(しわ)っている!
あたらしい傘
あたらしい雨
その一日の「夜」に約束される明日(あす)
九月の冷冷しい雨にぬれて
夕ぐれになれば
シュルレアリストZ・Iがやってくる
|
|
« 海 へ | トップページ | 脳髄のモーターのなかに »