カテゴリー

« つんぼの犬 | トップページ | 死の行列 »

老 人

ー大手拓次ー

わたしのそばへきて腰をかけた、

ほそい杖にたよってそうっと腰をかけた。

老人はわたしの眼をみていた。

たったひとつの光がわたしの背にふるえていた。

奇蹟のおそわれのように

わらいはじめると、

その口がばかにおおきい。

おだやかな日和(ひより)はながれ、

わたしの身がけむりになってしまうかとおもうと、

老人は白いひげをはやした蟹(かに)のようにみえた。

 

« つんぼの犬 | トップページ | 死の行列 »

短くて心に残る詩」カテゴリの記事