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ー大手拓次ー
わたしのそばへきて腰をかけた、
ほそい杖にたよってそうっと腰をかけた。
老人はわたしの眼をみていた。
たったひとつの光がわたしの背にふるえていた。
奇蹟のおそわれのように
わらいはじめると、
その口がばかにおおきい。
おだやかな日和(ひより)はながれ、
わたしの身がけむりになってしまうかとおもうと、
老人は白いひげをはやした蟹(かに)のようにみえた。