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ー宮本百合子ー
若き夫と妻。
明るい六月の電燈の下で
チラチラと鋏を輝かせ
針を運び
繊細なレースをいじる。――
「どう?……これでよろしいの?
長くはなくって?」
妻は薄紫のきものの膝から
雪のようなきれをつまみあげた。
「いいだろう。寸法を計ったのだもの」
夫は 二足で 傍らの小窓に近づいた
六月 窓外の樹々は繁り
かすかな虫の声もする 夜。
朝 彼等の小窓に
泡立つレースのカーテンが
御殿のように風に戦いで 膨らんだ。