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ねずみ

ー山之口貘ー

生死の生をほっぽり出して

ねずみが一匹浮彫(うきぼり)みたいに

往来のまんなかにもりあがっていた

まもなくねずみはひらたくなった

いろんな

車輪が

すべって来ては

あいろんみたいにねずみをのした

ねずみはだんだんひらくたくなった

ひらたくなるにしたがって

ねずみは

ねずみ一匹の

ねずみでもなければ一匹でもなくなって

その死の影すら消え果てた

ある日 往来に出てみると

ひらたい物が一枚

陽にたたかれて反(そ)っていた

 

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