カテゴリー

« 八月の石にすがりて | トップページ | 赤いマリ »

自然に、充分自然に

ー伊東静雄ー

草むらに子供は蜿(もが)く小鳥を見つけた。

子供はのがしはしなかった。

けれども何か瀕死(ひんし)に傷いた小鳥の方でも

はげしくその手の指に噛みついた。

 

子供はハットその愛撫を裏切られて

小鳥を力まかせに投げつけた。

小鳥は奇妙につよく空(くう)を蹴り

翻(ひるがえ)り 自然にかたえの枝をえらんだ。

 

自然に? 左様 充分自然に!

――やがて子供は見たのであった、

礫(こいし)のようにそれが地上に落ちるのを。

そこに小鳥はらくらくと仰けにね転んだ。

 

 

※蜿は原文では「足へん+宛」。

 

« 八月の石にすがりて | トップページ | 赤いマリ »

短くて心に残る詩」カテゴリの記事