カテゴリー

« 遠き春に寄せて | トップページ | 七月二日・初蝉 »

石柱の歌

ー立原道造ー

私は石の柱……崩れた家の 台座を踏んで
自らの重みを ささえるきりの
私は一本の石の柱だ——乾いた……
風とも 鳥とも 花とも かかわりなく
私は 立っている
自らのかげが地に
投げる時間に見入りながら

 

歴史もなく 悔いも 愛もなく
灰色のくらい景色のなかにひとりぼっちに

また青い日に  キラキラとひかって
立っているとき おもいはもう言葉にならない

 

花模様のついた会話と 幼い痛みと
よく笑った歌い手と……それを ときどき おもい出す
風のように 過ぎて行った あれは
私の記憶だろうか また日々だろうか

 

私は おきわすられた ただ一本の柱だ
そうして 何〔なに〕の 廃墟に 名前なく
こうして 立っている 私は 柱なのか
答えもなしに あらわに 外の光に?
嘗(かつ)ての日よりも 踏みしめて
強く立とうとする私には ささえようとするなにがあるのか!
知らない……甘い夢の誘いと潤沢な眠りに縁取られた薄明のほかは——

 

<ぜひ読んでおきたい! 心に残る短い詩>

立原道造詩集 (ハルキ文庫)
立原 道造
角川春樹事務所
売り上げランキング: 58,312
立原道造詩集 (岩波文庫)
立原 道造
岩波書店
売り上げランキング: 50,111
立原道造詩集 僕はひとりで 夜がひろがる
立原 道造 魚喃 キリコ
パルコ
売り上げランキング: 140,105

« 遠き春に寄せて | トップページ | 七月二日・初蝉 »

短くて心に残る詩」カテゴリの記事