ージェラール・ド・ネルヴァル(中原中也訳)ー
誰でも太陽をジッと視た者は
目の前を、自分の周囲を空気の中を
鉛色の斑点が飛ぶのをみる。
そのように、私がまだ若くて横着であった頃
一度光栄の上に目を見据えたことがあった。
すると黒点が私の貪婪な眼眸(まなざし)の中に留った。
以来、すべての物に喪の印(しるし)の如く、
私の目に停る所には何処にでも、
その黒い汚点があるのを私はみる。
どうしたこった、何時も何時も! 私と幸福との間に
一羽の鷲が――不幸なこった不幸な!――
性懲りもなく太陽と光栄とを視守っている。
(「新編中原中也全集」より。現代仮名遣いに改めました。)
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