ー高村光太郎ー
何が面白くて駝鳥を飼うのだ。
動物園の四坪半のぬかるみの中では、
脚が大股(おおまた)過ぎるじゃないか。
頸(くび)があんまり長過ぎるじゃないか。
雪の降る国にこれでは羽がぼろぼろ過ぎるじゃないか。
腹がへるから堅パンも食うだろうが、
駝鳥の眼は遠くばかり見ているじゃないか。
身も世もない様に燃えているじゃないか。
瑠璃色(るりいろ)の風が今にも吹いて来るのを待ちかまえているじゃないか。
あの小さな素朴な頭が無辺代の夢で逆まいているじゃないか。
これはもう駝鳥じゃないじゃないか。
人間よ、
もう止(よ)せ、こんな事は。
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