立 札
ー山之口貘ー
かれらはみんな
ひそんでいたのだ
蟻だの蠅だの毛虫だの
蜘蛛だの蛇だの蛙だのとそれぞれが任意の場所に身を構えて
いっせいに季節を呼び合っているのだ
義兄がそろそろまたはじまった
鉢巻をして手製の銛(もり)を提げて
うえの畑へと出かけるようになった
今年はまだ一匹も
銛にやられた奴を見ないが
土龍(もぐら)のやろうはすでにうえの畑を荒しているというのだ
いよいよここらで世の中も
暑くなるばかりになったのか
かれらはみんな
ひそんでいたのだが
緑を慕ってさかんにいろんな姿を地上に現わして来たのだ
隣りの村ではもうその部落の入口に
夏むきなのを一本
おっ立てた
村内の協議に依りとあって
物貰(ものもら)いと
押売りなどの立入りを
お断り致しますとあるのだ
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