月夜とポプラ
ー中原中也ー
木(こ)の下かげには幽霊がいる
その幽霊は、生れたばかりの
まだ翼(はね)弱いこうもりに似て、
而(しか)もそれが君の命を
やがては覘(ねら)おうと待構えている。
(木の下かげには、こうもりがいる。)
そのこうもりを君が捕って
殺してしまえばいいようなものの
それは、影だ、手にはとられぬ
而も時偶(ときたま)見えるに過ぎない。
僕はそれを捕ってやろうと、
長い歳月考えあぐんだ。
けれどもそれは遂(つい)に捕れない、
捕れないと分った今晩それは、
なんともかんともありありと見える――
(一九三五・一・一一)
<ぜひ読んでおきたい! 心に残る短い詩>
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