夜 店
ー中原中也ー
アセチリンをともして、
低い台の上に商品を並べていた、
僕は昔の夜店を憶(おも)う。
万年草(まんねんぐさ)を売りに出ていた、
植木屋の爺々(じじい)を僕は憶う。
あの頃僕は快活であった、
僕は生きることを喜んでいた。
今、夜店はすべて電気を用い、
台は一般に高くされた。
僕は呆然(ぼうぜん)と、つまらなく歩いてゆく。
部屋(うち)にいるよりましだと思いながら。
僕にはなんだって、つまらなくって仕方がない。
それなのに今晩も、こうして歩いている。
電車にも、人通りにも、僕は関係がない。
<ぜひ読んでおきたい! 心に残る短い詩>
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