カテゴリー

« 眼にて云う | トップページ | 夜の停留所で »

〔風がおもてで呼んでいる〕

ー宮沢賢治ー

風がおもてで呼んでいる

「さあ起きて

赤いシャッツと

いつものぼろぼろの外套を着て

早くおもてへ出て来るんだ」と

風が交々叫んでいる

「おれたちはみな

おまえの出るのを迎えるために

おまえのすきなみぞれの粒を

横ぞっぱうに飛ばしている

おまえも早く飛びだして来て

あすこの稜ある巌(いわお)の上

葉のない黒い林のなかで

うつくしいソプラノをもった

おれたちのなかのひとりと

約束通り結婚しろ」と

繰り返し繰り返し

風がおもてで叫んでいる

(宮沢賢治「疾中」青空文庫より。現代仮名遣いに改めました。)

<ぜひ読んでおきたい! 心に残る短い詩>

« 眼にて云う | トップページ | 夜の停留所で »

短くて心に残る詩」カテゴリの記事