ー伊東静雄ー
室内楽はピタリとやんだ
終曲のつよい熱情とやさしみの殘響
いつの間(ま)にか
おれは聴き入っていたらしい
だいぶして
楽器を取り片づけるかすかな物音
何かに絃(げん)のふれる音
そして少女の影が三四(さんし)大きくゆれて
ゆっくり一つ一つ窓をおろし
それらの姿は窓のうちに
しばらくは動いているのが見える
と不意に燈(ひ)が一度に消える
あとは身にしみるように靜かな
ただくらい学園の一角
ああ無邪気な淨福よ
目には消えていまは一層あかるくなった窓の影絵に
そっとおれは呼びかける
おやすみ
(「伊東静雄詩集」岩波文庫より。現代仮名遣いに改めました。)
<ぜひ読んでおきたい! 心に残る短い詩>
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