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消え入りそうな幸福/「更くる夜」

「無題」で敬虔(けいけん)な気持ちを歌ったところで
「みちこ」の章は
「更くる夜」「つみびとの歌」という二つの献呈詩を置いて閉じます。

献呈は
一人は内海誓一郎、
一人は阿部六郎へ。

どちらも丸眼鏡の
生真面目そうな人柄を感じさせる
「白痴群」同人です。

内海は
「帰郷」と「失せし希望」に作曲した「スルヤ」のメンバーでした。

更くる夜
       内海誓一郎に 

毎晩々々、夜が更(ふ)けると、近所の湯屋(ゆや)の
  水汲(く)む音がきこえます。
流された残り湯が湯気(ゆげ)となって立ち、
  昔ながらの真っ黒い武蔵野の夜です。
おっとり霧も立罩(たちこ)めて
  その上に月が明るみます、
と、犬の遠吠(とおぼえ)がします。

その頃です、僕が囲炉裏(いろり)の前で、
  あえかな夢をみますのは。
随分(ずいぶん)……今では損(そこ)われてはいるものの
  今でもやさしい心があって、
こんな晩ではそれが徐かに呟きだすのを、
  感謝にみちて聴(き)きいるのです、
感謝にみちて聴きいるのです。

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。「新かな」に変え、一部「ルビ」を加えました。編者。)

湯屋(ゆや)は現在の銭湯(せんと)。

夜遅くというのですから
終業後の清掃時間に
ざーっざーっと水を流す音が
原稿用紙に向かう詩人の部屋に聞こえてきたのでしょう。

かなり近いところにあるらしく
黒々とした闇に
湯気が立ち上るのが見えたのです。

それが霧となっては天空に広がり
その向こうに月が出ています……。

詩人はこの詩を作ったころ
「高井戸町中高井戸37」に住んでいました。
彫刻家、高田博厚の住まいの近くです。

現在の中央線、西荻窪駅南口から
およそ200メートル余りを歩いたあたりです。

昭和初期のことでした。

このような武蔵野の夜の光景は
ついこの間までありふれたものでした。

現在でもその面影は残っていますが
夜の暗さや静けさは比較になりません。
天の川の見える星々のまたたきもありました。

ものの音の絶えた静寂の中で
仕事を仕舞う人の気配が
詩人の孤独をなぐさめます。

犬の遠吠えも
馴染みのことなのかもしれません。

今夜ばかりは
やさしい気持ちになっています。

「あえかな」は
「ほんのり」とか「わずかに」とかの意味。

消え入りそうにか弱い
まどろみの時を過ごすのです。

詩人の時間に
このような幸福もあったのです。

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