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白秋の二つの詩/「雪の宵」その2

「雪の宵」のエピグラフにした
北原白秋の詩「青いソフトに」は
白秋の第2詩集「思い出」にあります。

「青いソフトに」を
いま手元にある神西清編「北原白秋詩集」(新潮文庫、昭和48年4月30日 39刷)をめくると

青いソフトに

青いソフトにふる雪は
過ぎしその手か、ささやきか、
酒か、薄荷(はっか)か、いつのまに
消ゆる涙か、なつかしや。

――とあります。

「新編中原中也全集」第1巻・解題篇は
参考として、
「思い出」(東雲堂書店、明治44年発行)の中のこの詩を紹介していますが
吉田凞生編「中原中也必携」(別冊国文学No4 1979夏季号)中の解釈資料には
「青いソフトに」に続いて配置されている
「意気なホテル」という詩も同時に紹介しています。

この「意気なホテル」という詩は
神西清編「北原白秋詩集」中の「思い出」に収録されていませんし
「新編中原中也全集」にも紹介されていないのですが
中原中也の「雪3部作」に深い影響がありますから
ここで掲出しておきましょう。

意気なホテル

意気なホテルの煙突(けむだし)に
けふも粉雪のちりかかり、
青い灯(ひ)が点(つ)きや、わがこころ
何時もちらちら泣きいだす。

この詩は「青空文庫」にも収録されていますが、
同文庫では旧漢字をそのまま使用し
タイトルは「意氣なホテルの」であるなど
「中原中也必携」と若干の違いがあります。

※このブログでは
ひとまず「意気なホテル」としておきます。

白秋の二つの詩
「青いソフトに」
「意気なホテル」
――は
中也の三つの詩
「汚れっちまった悲しみに……」
「雪の宵」
「生いたちの歌」
――を読むときに「欠かせない」参考資料になります。

雪の宵

        青いソフトに降る雪は
        過ぎしその手か囁きか  白 秋

ホテルの屋根に降る雪は
過ぎしその手か、囁(ささや)きか
  
  ふかふか煙突(えんとつ)煙吐(けむは)いて、
  赤い火の粉(こ)も刎(は)ね上る。

今夜み空はまっ暗で、
暗い空から降る雪は……

  ほんに別れたあのおんな、
  いまごろどうしているのやら。

ほんにわかれたあのおんな、
いまに帰ってくるのやら

  徐(しず)かに私は酒のんで
  悔(くい)と悔とに身もそぞろ。

しずかにしずかに酒のんで
いとしおもいにそそらるる……

  ホテルの屋根に降る雪は
  過ぎしその手か、囁きか

ふかふか煙突煙吐いて
赤い火の粉も刎ね上る。

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。「新かな」に変え、一部「ルビ」を加えました。編者。)

白秋の作った二つの詩から
中也は三つの詩へと展開しました。

「汚れっちまった悲しみに……」
「雪の宵」
「生いたちの歌」
――は独立した詩ではありますが
切り離せない関係にあります。

この3作品は
互いに補(おぎな)う部分を含んでいます。

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