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無邪気な戦士のこころ/「修羅街輓歌」その4

「Ⅲ 独語」にある
「モーションは大きい程いい。」は
前後もみないで生きてきた
あんまり陽気にすぎた?
無邪気な戦士
――に連なるものでしょう。

器の中の水が揺れないように、
器を持ち運ぶことは大切なのだ。
――という「喩(ゆ)」が示すのは
世間を渡っていくために
詩人が苦労して編み出した知恵(工夫)のようなことであったはずでした。

そうして生きてきた青春が
終わってしまったのです。

過ぎてしまったのですが
それは単に時間が過ぎていったということではなく
何かによって否定された響きをもちます。

もはやそのような工夫をこれ以上凝らす余地もないというのなら
「神(恵)」を待つほかにないということを
「Ⅲ 独語」は
否応もなく歌っていることになります。

逆に見れば
無邪気な戦士である私の心を
詩人(私)は放棄していないということになります。

モーションを大きくするという工夫は
無邪気な戦士の戦略みたいなものなのです。
それを容易に手放すことはできません。

修羅街輓歌

       関口隆克に

   序 歌

忌(いま)わしい憶(おも)い出よ、
去れ! そしてむかしの
憐(あわれ)みの感情と
ゆたかな心よ、
返って来い!

  今日は日曜日
  椽側(えんがわ)には陽が当る。
  ――もういっぺん母親に連れられて
  祭の日には風船玉が買ってもらいたい、
  空は青く、すべてのものはまぶしくかがやかしかった……

     忌わしい憶い出よ、
     去れ!
        去れ去れ!

   Ⅱ 酔 生(すいせい)

私の青春も過ぎた、
――この寒い明け方の鶏鳴(けいめい)よ!
私の青春も過ぎた。

ほんに前後もみないで生きて来た……
私はあんまり陽気にすぎた?
――無邪気な戦士、私の心よ!

それにしても私は憎む、
対外意識にだけ生きる人々を。
――パラドクサルな人生よ。

いま茲(ここ)に傷つきはてて、
――この寒い明け方の鶏鳴よ!
おお、霜にしみらの鶏鳴よ……

   Ⅲ 独 語(どくご)

器(うつわ)の中の水が揺れないように、
器を持ち運ぶことは大切なのだ。
そうでさえあるならば
モーションは大きい程いい。

しかしそうするために、
もはや工夫を凝(こ)らす余地もないなら……
心よ、
謙抑(けんよく)にして神恵(しんけい)を待てよ。

   Ⅳ

いといと淡き今日の日は
雨蕭々(しょうしょう)と降り洒(そそ)ぎ
水より淡き空気にて
林の香りすなりけり。

げに秋深き今日の日は
石の響きの如(ごと)くなり。
思い出だにもあらぬがに
まして夢などあるべきか。

まことや我(われ)は石のごと
影の如くは生きてきぬ……
呼ばんとするに言葉なく
空の如くははてもなし。

それよかなしきわが心
いわれもなくて拳(こぶし)する
誰をか責むることかある?
せつなきことのかぎりなり。

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。「新かな」に変え、一部「ルビ」を加えました。編者。)

こうして詩人は
神(恵)を待ちますが……。

「待つ」あいだこそ
修羅のようです。

縁側に陽があたる日曜日は
鶏鳴の聞こえる寒い朝を過ぎて
淡き今日の日になりました。

雨蕭々と降り洒ぎ
水よりも淡い空気の
林の香りのする晩秋です。

今日、石の響きのように
思い出もなく
夢もない――。

石のように
影のように
生きてきました――。

呼ぼうとしても言葉にならない
空のように果てがない――。

なんとかなしいこころよ。
わけもなく拳固(げんこ)をにぎり
誰かを責めることができましょうか。

呼ぶ(叫ぶ、訴える)
拳する(怒る、打つ)
責める(攻撃する)

そういうことが出来ない状態です。

「修羅街輓歌」は
修羅街への訣別を意味する挽歌か。
修羅街から歌う挽歌か。

突き詰めれば同じことになるのかもしれません。

「挽歌」ではおさまらない。
「輓歌」ならば
改まった正規な「葬送歌」のニュアンスを帯びます。

ここでは「鎮魂歌(レクイエム)」に近いでしょうか。

心も新たにして
「輓歌」を歌ったのです。

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