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いまに帰ってくるのやら/「雪の宵」

東京が「修羅街」ならば
「雪の宵」も同じその街で歌われました。

その街を歌いました。

「秋」の章に配置された
雪の詩であるのは
やはり「恋愛」の段階を示すものです。
局面といったほうがいいかな。

詩人自身がそのことを自覚していたことを明かしていますが
一寸先は闇の恋のことですから
自覚と恋の命運は別です。

ほんにわかれたあのおんな、
いまに帰ってくるのやら
(第5連)
――とあるのも本心(のはず)でした。

雪の宵

        青いソフトに降る雪は
        過ぎしその手か囁きか  白 秋

ホテルの屋根に降る雪は
過ぎしその手か、囁(ささや)きか
  
  ふかふか煙突(えんとつ)煙吐(けむは)いて、
  赤い火の粉(こ)も刎(は)ね上る。

今夜み空はまっ暗で、
暗い空から降る雪は……

  ほんに別れたあのおんな、
  いまごろどうしているのやら。

ほんにわかれたあのおんな、
いまに帰ってくるのやら

  徐(しず)かに私は酒のんで
  悔(くい)と悔とに身もそぞろ。

しずかにしずかに酒のんで
いとしおもいにそそらるる……

  ホテルの屋根に降る雪は
  過ぎしその手か、囁きか

ふかふか煙突煙吐いて
赤い火の粉も刎ね上る。

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。「新かな」に変え、一部「ルビ」を加えました。編者。)

「雪の宵」は
「白痴群」第6号に発表されましたが
同じ号に
「汚れっちまった悲しみに……」
「生い立ちの歌」もあり
雪をモチーフにした詩の3作同時発表ということになります。

「山羊の歌」では
まとめられなかったのですが
「雪3部作」といってもよいでしょう。

3作品は
深部でつながっています。
恋愛の局面が動いているということです。

ほんに別れたあのおんな、
いまごろどうしているのやら。
――と75のリズムに俗謡っぽさを混ぜて歌うことができるほど
「恋」は冷めています。

おかしみさえあります。

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