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「むなしさ」からはじまった「在りし日の歌」<1>幻の処女詩集から「山羊の歌」へ

それにしても
幻の処女詩集の計画が頓挫したところから
「山羊の歌」が発行される昭和9年末までには
長い時間があります。
 
「むなしさ」を書いた詩人は
まだまだ大都会を歩きはじめたばかりのところにいるのですが
この詩が「在りし日の歌」に収録されても
詩人はこの第二詩集を
生前、手にすることはできなかったのです。
 
詩人の足取りを追っていくうちに
そのことを知ることになるのですが
それにしても
生命賛歌に溢れた「山羊の歌」の発行から
3年も経たない日に
詩人は死亡してしまい
死亡してしまうにもかかわらず
第二詩集「在りし日の歌」を残したのです。
 
この信じがたい軌跡!
 
処女詩集を計画した
昭和2、3年の時点で
詩人はもちろん
自らの運命を知ることはなかったのですが
そのことを知りながら
大都会を歩きはじめたばかりの詩人の後を
歩いていくことができるなんて
読者って
祝福された存在ですよね。
 
詩は逃げていかないし
寄り道もできるし。
 
 *
 むなしさ
 
臘祭(らふさい)の夜の 巷(ちまた)に堕(お)ちて
 心臓はも 条網に絡(から)み
脂(あぶら)ぎる 胸乳(むなち)も露(あら)は
 よすがなき われは戯女(たはれめ)
 
せつなきに 泣きも得せずて
 この日頃 闇を孕(はら)めり
遐(とほ)き空 線条に鳴る
 海峡岸 冬の暁風
 
白薔薇(しろばら)の 造花の花弁(くわべん)
 凍(い)てつきて 心もあらず
 
明けき日の 乙女の集(つど)ひ
 それらみな ふるのわが友
 
偏菱形(へんりようけい)=聚接面(しゆうせつめん)そも
 胡弓(こきゆう)の音 つづきてきこゆ
 
(角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)

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