中原中也の詩に出てくる「人名・地名」 1
中原中也の詩に現われる
「人名」や「地名」などの固有名詞の登場を探ってみます。
「新宿」が出てきたり
「リンカーン」が出てきたり
「丹下左膳」が出てきたり……。
これも詩を横道から楽しむだけですから
お気軽お気楽にお読みください。
◇
では、詩集「山羊の歌」から
◇
<山羊の歌>
秋の一日
こんな朝、遅く目覚める人達は
戸にあたる風と轍(わだち)との音によって、
サイレンの棲む海に溺れる。
※「サイレン」
◇
凄じき黄昏
捲(ま)き起る、風も物憂(ものう)き頃(ころ)ながら、
草は靡(なび)きぬ、我はみぬ、
遐(とお)き昔の隼人等(はやとら)を。
※「隼人等(はやとら)」
◇
深夜の思い
黒き浜辺にマルガレエテが歩み寄(よ)する
ヴェールを風に千々(ちぢ)にされながら。
彼女の肉(しし)は跳び込まねばならぬ、
厳(いか)しき神の父なる海に!
※「マルガレエテ」
◇
ためいき
河上徹太郎に
空が曇ったら、蝗螽(いなご)の瞳が、砂土(すなつち)の中に覗(のぞ)くだろう。
遠くに町が、石灰(せっかい)みたいだ。
ピョートル大帝の目玉が、雲の中で光っている。
※「河上徹太郎」「ピョートル大帝」
◇
更くる夜
内海誓一郎に
※「内海誓一郎」
◇
つみびとの歌
阿部六郎に
※「阿部六郎」
◇
修羅街輓歌
関口隆克に
※「関口隆克」
◇
雪の宵
青いソフトに降る雪は
過ぎしその手か囁きか 白 秋
※「白 秋」
◇
時こそ今は……
時こそ今は花は香炉に打薫じ
ボードレール
いかに泰子(やすこ)、いまこそは
しずかに一緒に、おりましょう。
遠くの空を、飛ぶ鳥も
いたいけな情(なさ)け、みちてます。
いかに泰子、いまこそは
暮るる籬(まがき)や群青の
空もしずかに流るころ。
いかに泰子、いまこそは
おまえの髪毛なよぶころ
花は香炉に打薫じ、
※「ボードレール」「泰子」
◇
羊の歌
安原喜弘に
Ⅲ
我が生は恐ろしい嵐のようであった、
其処此処に時々陽の光も落ちたとはいえ。
ボードレール
※「安原喜弘」「ボードレール」
◇
憔 悴
Pour tout homme, il vient une èpoque
où l'homme languit. ―Proverbe.
Il faut d'abord avoir soif……
――Cathèrine de Mèdicis.
※「Cathèrine de Mèdicis.」
◇
いのちの声
もろもろの業、太陽のもとにては蒼ざめたるかな。
――ソロモン
僕はもうバッハにもモツアルトにも倦果(あきは)てた。
あの幸福な、お調子者のジャズにもすっかり倦果てた。
僕は雨上りの曇った空の下の鉄橋のように生きている。
僕に押寄せているものは、何時(いつ)でもそれは寂漠(せきばく)だ。
※「ソロモン」「バッハ」「モツアルト」
◇
「盲目の秋」の「聖母(サンタマリア)」はここでは外しました。
一般名詞化していると見なされるからです。
入れてもおかしくはありませんが。
「隼人等(はやとら)」は「薩摩隼人」ということで
「地名」が隠れていると見なし載せました。
◇
「サイレン」
「隼人等(はやとら)」
「マルガレエテ」
「河上徹太郎」
「ピョートル大帝」
「内海誓一郎」
「阿部六郎」
「関口隆克」
「白 秋」
「ボードレール」
「泰子」
「安原喜弘」
「Cathèrine de Mèdicis.」
「ソロモン」
「バッハ」
「モツアルト」
――とありましたが
タイトル回りの「献呈相手」や「序詞」に出てきたものを除いて
本文中に現われた「人名・地名」は多くはありませんでした。
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