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「白痴群」前後・幻の詩集9「聖浄白眼」

詩集の「序」あるいは「結」であるように歌われた詩ならば
それに込められたメッセージは
「小難しい」ものである前に「伝わる」ものでなければなりませんが
「聖浄白眼」もまた難解です。
 
仏教用語を思わせるこのタイトルですが
単純に考えれば
「清く美しい白い眼」というような意味になるでしょうか。
 
 
「神に」
「自分に」
「歴史に」
「人群に」
――と4節に整理してメッセージが述べられますが
しかし、その核心にある経験は
長谷川泰子に逃げられたという「事件」であり
逃げた先が小林秀雄という友人だったという「事件」でした。
 
(ああ何を匿(かく)そうなにを匿そう。)
――と詩は「事件」についていまさら隠してもはじまらないことを「告白」します。
 
第1節の「曇った寒い日」とは
1925年(大正14年)の11月の、
泰子が去った日の記憶にほかなりません。
 
 
聖浄白眼
 
   神に
 
面白がらせと怠惰のために、こんなになったのでございます。
今では何にも分りません。
曇った寒い日の葉繁みでございます。
眼瞼(まぶた)に蜘蛛がいとを張ります。
 
   (ああ何を匿(かく)そうなにを匿そう。)
 
しかし何の姦計(かんけい)があってからのことではないのでございます。
面白がらせをしているよりほか、なかったのでございます。
私は何にも分らないのでございます。
頭が滅茶苦茶になったのでございます。
 
それなのに人は私に向って断行的でございます。
昔は抵抗するに明知を持っていましたが、
明知で抵抗するのには手間を要しますので、
遂々(とうとう)人に潰されたとも考えられるのでございます。
 
   自分に
 
私の魂はただ優しさを求めていた。
それをそうと気付いてはいなかった。
私は面白がらせをしていたのだ……
みんなが俺を慰(なぐさ)んでやれという顔をしたのが思いだされる。
 
   歴史に
 
明知が群集の時間の中に丁度よく浮んで流れるのには
二つの方法がある。
一は大抵の奴が実施しているディレッタンティズム、
一は良心が自ら楝獄(れんごく)を通過すること。
 
なにものの前にも良心は抂(ま)げらるべきでない!
女・子供のだって、乞食のだって。
 
歴史は時間を空間よりも少しづつ勝たせつつある?
おお、念力よ!現れよ。
 
   人群(じんぐん)に
 
貴様達は決して出納掛(すいとうがかり)以上ではない!
貴様達は善いものも美しいものも求めてはおらぬのだ!
貴様達は糊付け着物だ、
貴様達は自分の目的を知ってはおらぬのだ!
 
 
中原中也が泰子との別れを歌うのは
ここにはじまったことではなく
繰り返し繰り返し
晩年に至るまで「題材」にすることになるのですから
驚くに値しませんが
処女詩集の「序」または「締めくくり」の詩にも
別れの経験が現われるのです。
 
この経験を
詩集のメッセージへと歌い上げようとします。
 
 
その経験は
 
今では何にも分りません。
私は何にも分らないのでございます。
 
――という混迷に詩人を追いやりました。
この時何が起こったのか自分で「理解」できていない状態です。
「頭が滅茶苦茶になっ」てしまったのです。
 
ですから
「神に」訴えるほかになかったのです。
 
 
「自分に」優しさだけを要求していましたけれど
そのことに気づいていません。
(他人を)面白がらせて(自分も)面白がっているだけでした。
今になってみれば(そんな自分を)
みんなでからかっていた顔が思い出されるばかり。
(なんと「くそ」優しい男だったのか)
 
 
姦計やからかいや……
小ずるい心が横行する群衆の中で
賢明さを失わずに生きていくには
地獄の道を通らねばならないくらいの良心がいるものさ
 
どんなことがあっても
この良心をうっちゃってしまってはいけない!
 
 
人間様たちよ!
金の出入りに明け暮れる者たちよ
善いもの美しいものを求めるつもりがあるか
糊のきいた着物だけが着物じゃあるまい
自分の目的をちゃんと知っているかね
 
 
詩(人)が目指すものと
正反対のモノゴトが陳列されたかのようです。
 
これらは
詩(人)の敵です。
戦うべき対象と言わんばかりです。
 
この戦いの果てにある
「聖浄白眼」の尊さが詩人に見えています。
 

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