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「白痴群」前後・片恋の詩16「妹よ」

その1
 
「みちこ」が歌っている女性は
大岡昇平によると
長谷川泰子ではなく
谷崎潤一郎の小説「痴人の愛」のモデルとされる葉山三千子との記述がありますが
現実の女性がだれそれと特定することに
過度に集中してはいけません。
 
現実の女性が問題なのではなく
詩が表現(実現)した女性のリアリティーが
詩の命のはずですから
詩の「外部(背景)」をこの命の上位に置くことは邪道です。
 
 
「みちこ」という詩は
「みちこ」という詩で完結しています。
「みちこ」以外から読むことは避けたほうがベターです。
 
「みちこ」は
みちこという女性の美しさを
歌い上げていて完璧であるところで
詩の目的(存在価値)を達成しています。
 
 
「臨終」や「盲目の秋」についても
同じことが言えますし
「妹よ」も「時こそ今は……」についても
同じことが言えます。
 
「妹よ」という詩を読むには
モデルを想定することの無意味さが
はっきりとしてくることでしょう。
 
 
妹 よ
 
夜、うつくしい魂は涕(な)いて、
  ――かの女こそ正当(あたりき)なのに――
夜、うつくしい魂は涕いて、
  もう死んだっていいよう……というのであった。
 
湿った野原の黒い土、短い草の上を
  夜風は吹いて、 
死んだっていいよう、死んだっていいよう、と、
  うつくしい魂は涕くのであった。
 
夜、み空はたかく、吹く風はこまやかに
  ――祈るよりほか、わたくしに、すべはなかった……
 
 
中原中也には妹はいません。
みんな男の兄弟です。
なのに「妹」とはどういうことでしょうか?
 
この詩を読むために
「妹」を探したってムダですが
なぜ「妹」なのかを問うことは
詩を味わうことの醍醐味(だいごみ)に通じています。
だから面白いのです。
 
 
その2
 
恋の相手に
兄が妹を思う愛情が混ざっていて
恋人への愛情と妹への愛情との境界など見えないので
はっきり区別できないというようなことはありますし
二つの気持ちがかぶさっている領域があるかもしれないし……
 
恋人に「妹よ」と
感嘆の気持ちを抱いて呼びかけても
おかしいことではありません。
 
 
元始、「いも」は
「妻」であり「恋人」であり「姉妹」でした。
 
恋も色々な貌(かお)を持ちます。
色々な形があって当たり前です。
 
 
妹 よ
 
夜、うつくしい魂は涕(な)いて、
  ――かの女こそ正当(あたりき)なのに――
夜、うつくしい魂は涕いて、
  もう死んだっていいよう……というのであった。
 
湿った野原の黒い土、短い草の上を
  夜風は吹いて、 
死んだっていいよう、死んだっていいよう、と、
  うつくしい魂は涕くのであった。
 
夜、み空はたかく、吹く風はこまやかに
  ――祈るよりほか、わたくしに、すべはなかった……
 
 
そもそもこの詩には、
 
湿った野原の黒い土
短い草
夜風が吹いている
 
――という「舞台装置(背景)」が歌われているだけです。
 
ほかには、
「死んだっていいよう」と泣く女性らしき人
わたくし
 
――だけが現われますが
この女性は
ここにいるのかが判然とはしないで
風の中から声が聞えてきます。
 
やがて、ここに女性の存在はなく
風そのものの声のようなことがわかってきます。
 
いつかそう言うのを聞いたことがあるか
いまそう言うのが聞えているのか
女性の姿はなく
声だけが風の中から聞えているのです。
 
風が声になっているのです。
 
 
どのような理由があって
「死んでもいい」「よう」というのか。
なんの手掛かりはありません。
 
「よう」という「終助詞」だけが
女性の正体の片鱗を見せます。
 
「う」があることによって
幼児(年下)が使った言葉であることがわかります。
 
「妹よ」でなければならなかった
タイトルの由来がここにあります。
 
 
 
「妹」のような女性
「妹」のような恋人
――というほどの存在を想像するだけが
この詩を味わうのに必要であり
それで十分です。

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