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「白痴群」前後・片恋の詩4「寒い夜の自我像」

「寒い夜の自我像」もまた
原形は長詩でした。
 
まずは原形詩(全3節)を読みましょう。
 
 
寒い夜の自我像
 
   1
きらびやかでもないけれど、
この一本の手綱(たづな)をはなさず
この陰暗の地域をすぎる!
その志(こころざし)明らかなれば
冬の夜を、我は嘆かず、
人々の憔懆(しょうそう)のみの悲しみや
憧れに引廻(ひきまわ)される女等の鼻唄を、
わが瑣細(ささい)なる罰と感じ
そが、わが皮膚を刺すにまかす。
蹌踉(よろ)めくままに静もりを保ち、
聊(いささ)か儀文めいた心地をもって
われはわが怠惰を諌(いさ)める、
寒月の下を往きながら、
 
陽気で坦々として、しかも己を売らないことをと、
わが魂の願うことであった!……
 
   2
 
恋人よ、その哀しげな歌をやめてよ、
おまえの魂がいらいらするので、
そんな歌をうたいだすのだ。
しかもおまえはわがままに
親しい人だと歌ってきかせる。
 
ああ、それは不可(いけ)ないことだ!
降りくる悲しみを少しもうけとめないで、
安易で架空な有頂天を幸福と感じ倣(な)し
自分を売る店を探して走り廻るとは、
なんと悲しく悲しいことだ……
 
   3
 
神よ私をお憐(あわ)れみ下さい!
 
 私は弱いので、
 悲しみに出遇(であ)うごとに自分が支えきれずに、
 生活を言葉に換えてしまいます。
 そして堅くなりすぎるか
 自堕落になりすぎるかしなければ、
 自分を保つすべがないような破目(はめ)になります。
 
神よ私をお憐れみ下さい!
この私の弱い骨を、暖いトレモロで満たして下さい。
ああ神よ、私が先(ま)ず、自分自身であれるよう
日光と仕事とをお与え下さい!
 
        (一九二九・一・二〇)
 
 
第1節だけならば……
 
憧れに引廻(ひきまわ)される女等の鼻唄を、
わが瑣細(ささい)なる罰と感じ
――とあるところに
泰子を歌っている詩であることを読み取ることが可能です。
それをほかの行から汲むことはできません。
 
これが原形詩の「2」で
安易で架空な有頂天を幸福と感じ倣(な)し
自分を売る店を探して走り廻るとは、
――と歌われるのでいっそう明確に
泰子が「見込みのない」(大岡昇平)女優志願の夢を追っていた姿であると解釈されることになります。
 
「寒い夜の自我像」は
第2節、第3節を排除したために
泰子を歌った詩であるというよりも
詩人のスタンスを述べたメッセージ詩であり
「白痴群」創刊号ではマニフェスト(宣言)の位置を占め
「山羊の歌」では恋愛詩でありつつ詩人宣言の詩として発表されたのでした。
 
 
これが詩の一部でしかなく
第2、第3節が現われて
恋愛詩としての相貌(そうぼう)を色濃く漂わせます。
 
第2節で「恋人よ」と
第3節で「神よ」と
隠れていた悲痛な声が露出し
こうして「無題」と響き合います。
 
 
「白痴群」でも「山羊の歌」でも
思いきって第2節、第3節を削除したのは
この詩自体のメッセージ性を高めたのと
ほかの恋愛詩、たとえば「無題」との「かぶり」を避けたからです。
 
単独の詩の完結度を維持しながら
詩集編集上のバランス感覚が働いたものです。
 
恋の歌は思う存分に歌いたい
しかし、恋の歌に偏向したくない
 
恋愛詩を馬鹿にする奴らを見返してやりたい
恋愛詩の奥深さをもっともっと極めたい
まだまだ歌い足りていない
――という不満足感を詩人はぬぐいきれていません。
 
 
「憔悴」で
 
昔 私は思っていたものだった
恋愛詩なぞ愚劣(ぐれつ)なものだと
 
今私は恋愛詩を詠(よ)み
甲斐(かい)あることに思うのだ
 
だがまだ今でもともすると
恋愛詩よりもましな詩境にはいりたい
 
その心が間違っているかいないか知らないが
とにかくそういう心が残っており
 
それは時々私をいらだて
とんだ希望を起(おこ)させる
 
――と歌ったのは
昭和7年(1932年)2月のことでした。

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