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鳥が飛ぶ虫が鳴く・中原中也の詩4「生前発表詩篇」から

中原中也が発表(公開)した詩篇は、
詩集「山羊の歌」は生前発表、
詩集「在りし日の歌」は没後発表、
詩集のほかに新聞・雑誌(詩誌)に発表された詩篇は「生前発表詩篇」として整理されています。
 
この「生前発表詩篇」に現われる動物を列挙していきます。
短歌を除きます。
 
 
「暗い天候(二・三)」
犬が吠える、虫が鳴く、
   畜生(ちくしょう)! おまえ達には社交界も世間も、
ないだろ。着物一枚持たずに、
   俺も生きてみたいんだよ。
 
――やい、豚、寝ろ!
 
赤ン坊の泣声や、おひきずりの靴の音や、
昆布や烏賊(するめ)や洟紙(はながみ)や首巻や、
 
「夏と私」
真ッ白い嘆(なげ)かいのうちに、
海を見たり。鴎(かもめ)を見たり。
 
「寒い!」
小鳥も啼(な)かないくせにして
犬なぞ啼きます風の中。
 
「童 女」
飛行機虫の夢をみよ、
クリンベルトの夢をみよ。
 
眠れよ、眠れ、よい心、
おまえの眼(まなこ)は、昆虫だ。
 
「秋を呼ぶ雨」
秋を告げる雨は、夜明け前に降り出して、
窓が白む頃、鶏の声はそのどしゃぶりの中に起ったのです。
 
「北沢風景」
 僕は出掛けた。僕は酒場にいた。僕はしたたかに酒をあおった。翌日は、おかげで空が真空だ
った。真空の空に鳥が飛んだ。
 扨(さて)、悔恨(かいこん)とや……十一月の午後三時、空に揚(あが)った凧(たこ)ではない
か? 扨、昨日の夕べとや、鴫(しぎ)が鳴いてたということではないか?
 
「ひからびた心」
ひからびたおれの心は
そこに小鳥がきて啼(な)き
其処(そこ)に小鳥が巣を作り
卵を生むに適していた
 
「雨の朝」
上草履(うわぞうり)は冷え、
バケツは雀の声を追想し、
雨は沛然(はいぜん)と降っている。
 
「道化の臨終(Etude Dadaistique)」
君ら想(おも)わないか、夜毎(よごと)何処(どこ)かの海の沖に、
火を吹く龍(りゅう)がいるかもしれぬと。
 
雲雀(ひばり)は空に 舞いのぼり、
小児(しょうに)が池に 落っこった。
 
どうぞ皆さん僕という、
はてなくやさしい 痴呆症(ちほうしょう)、
抑揚(よくよう)の神の 母無(おやな)し子、
岬の浜の 不死身貝(ふじみがい)、
 
「夏」
戸外(そと)では蝉がミンミン鳴いた。
 
「初夏の夜に」
オヤ、蚊が鳴いてる、またもう夏か――
 
 
「童女」の「飛行機虫」がどのような虫かはわかっていません。
ゲンゴロウとかアメンボの類であろうという読みがあります。
「クリンベルト」もわかっていない語彙(ごい)の一つです。
グリーン・ベルトとかクリーン・ベルトとか。
想像して読むほかに手はありません。
 
「道化の臨終(Etude Dadaistique)」の「不死身貝(ふじみがい)」は、
詩人独特の「喩」(=たとえ)ですから実際には存在しないものですが
「貝」という動物であることは確かなので
ここには入れておきました。
 
 
「生前発表詩篇」は
昭和4年制作(推定)の「暗い天候(二、三)」が最も古く
昭和12年制作の「夏日静閑」が最も新しく
この期間に作られた詩が時系列で通覧できることになります。
もっとも「穴あき状態」ではありますが。
 
 
死去する年の昭和12年制作の詩「ひからびた心」や「夏」などには
まるで自己の死を予感していたかのような
死との親近があって息を飲まずにいられません。
ホラホラ、これが僕の骨だ、とはじまる有名な「骨」が昭和9年の制作です。
 
 
動物だけを列記すれば
 
昆布
烏賊(するめ)
鴎(かもめ)
小鳥
飛行機虫
昆虫
鴫(しぎ)
小鳥
龍(りゅう)
雲雀(ひばり)
不死身貝(ふじみがい)、
――となります。
 
傾向があるかどうか。
鳥類が多いような気もしますが。
 
 
 
 

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