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生きているうちに読んでおきたい名作たち7・「永訣の秋」の月光詩群・真昼のような「月の光」

その1

「幻影」でピエロが浴びていた月光は
「私の頭の中」にあるために
スポット・ライトを浴びているのに似て、

しろじろと身に月光を浴び、
あやしくもあかるい霧の中で、
かすかな姿態をゆるやかに動かし

――という距離感があり、

「月夜の浜辺」の月光は
波打際とボタンとを浮かびあがらせる舞台装置(=背景)のようですが
「月の光」の月光は
あたりを皓々と照らします。

月の光が照っていた
月の光が照っていた

――と、まるで真昼の陽光のように
満遍(まんべん)なく庭を照らし出しているのです。

春の夜のことだから
靄(もや)がかかっているとはいいながら
庭の隅も芝生も境なく
照らしているのです。

その庭の隅にある草叢には
死んだ児が隠れているのですが
隠れた格好をしているだけで
丸見えの感じです。

その同じ舞台の中央部の
月の光に照らし出された芝生に
突如現われるのがチルシスとアマント。

ギターを持ってきているが
芝生のうえに投げっぱなしにしてあるばかり――。

死んだ子どもと
チルシスとアマントが
一方は隅っこに
一方は真ん中に
ともに同じ舞台に登場している
不可思議な世界が
どこかリアルでどこか夢のようなのは
なぜなのでしょうか?

月の光 その一
 
月の光が照つてゐた
月の光が照つてゐた

  お庭の隅の草叢《くさむら》に
  隠れているのは死んだ児だ

月の光が照つてゐた
月の光が照つてゐた

  おや、チルシスとアマントが
  芝生の上に出て来てる

ギタアを持つては来てゐるが
おつぽり出してあるばかり

  月の光が照つてゐた
  月の光が照つてゐた
 

月の光 その二
 
おゝチルシスとアマントが
庭に出て来て遊んでる

ほんに今夜は春の宵
なまあつたかい靄(もや)もある

月の光に照らされて
庭のベンチの上にゐる

ギタアがそばにはあるけれど
いつかう弾き出しさうもない

芝生のむかふは森でして
とても黒々してゐます

おゝチルシスとアマントが
こそこそ話してゐる間

森の中では死んだ子が
蛍のやうに蹲(しやが)んでる

※「新編中原中也全集」より。《 》は原作者、( )は全集編集委員会によるルビです。

その2

死んだ子どもが隠れていたり(その一)
蛍のように蹲(しゃが)んでいたり(その二)する一方で
チルシスとアマントが
ギターをほっぽりだしたままコソコソ話している庭
――という舞台装置が不可思議な感じですが
いつしかその不可思議な詩世界に読者は入り込んでいます。

ここは庭です。
詩人の庭なのでしょう。

「月の光」に登場する
チルシスとアマントは
ポール・ベルレーヌの第2詩集とされる「艶(なまめ)かしき宴」に出てくる
一種のトリックスターですが
中原中也はなぜまたここにこれらの「いたずら者」を呼び出したのでしょうか?

チルシスもアマントも
なんとなく元気がなく
今夜ばかりは得意のギターを弾く気がしないらしく
ひそひそ話しをするだけです。

死んだ子へと接近するわけでもなく
チルシスとアマントは
舞台中央の芝生にとどまっています。

ああ、子どもにギターを弾いてやってくれないか
――という詩人の声が
月光下の沈黙の世界から聞えてくるかのようです。

「その一」と「その二」はほとんど同じ内容で
表現を考えているうちに
捨てるに捨てられない作品ができてしまって
二つの詩にしたことが推測できますが
これはあくまで推測です。

違いをあえて言えば
「その一」にはルフランがあり
「その二」にはルフランがない、ということほどのことでしょうか。

「永訣の秋」で「月の光」は
「月夜の浜辺」「また来ん春……」につづいて配置され
「冬の長門峡」や「春日狂想」が続いていますが
これらの作品が生まれた頃には
愛息文也の死という経験があったことを
もはや知らないで読むことはできません。

 

「月の光」の不可思議な世界が
妙にリアルで妙に幻のようなのは
このあたりのところから生じています。

 

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