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中原中也の詩に出てくる「人名・地名」27(まとめ)

「修羅街輓歌」は「白痴群」第5号(昭和5年1月1日発行)に合わせて
昭和4年(1929年)11月に制作されたことが推定されている作品(初出、第1次形態)。
「白痴群」第5号の発行直後の時点で
グループの崩壊は決定的でした。
大岡昇平と詩人が
安原喜弘の目黒の家での同人会で喧嘩してしまったのです。
 
前々年(昭和3年)の5月から前年(昭和4年)1月まで
関口隆克らと「北沢」で共同生活し
昭和4年1月には渋谷・神山(現富ヶ谷)の阿部六郎の下宿の近くに住んでいました。
第1号の発刊は昭和4年4月です。
 
 
「修羅街輓歌」は
大岡昇平と詩人が喧嘩した昭和5年1月の直前に作られたことになります。
直前というより
二人の仲は以前から険悪であったことからすれば
この時に「爆発」してしまったということです。
 
詩の内容が
これらを背景にしていることは疑いなく
そう考えながら読むと
吐き出されたように歌われた詩の姿が現われ
しかし、「謙抑(けんよく)にして神恵(しんけい)を待てよ。」などには
冷静になろうとする内面が映し出されているのを知ります。
 
 
「羊の歌」は
詩集「山羊の歌」を編集中の昭和7年に制作(推定)されたものです。
(初稿は前年6年という推定もあります)。
 
最終章「羊の歌」に
「羊の歌」「憔悴」「いのちの声」の3作品があり
「羊の歌」をその冒頭詩に配置したのですが
詩集編集(の最後)の段階で
献呈詩としては詩集の最後部に配置したのです。
 
「山羊の歌」をめくり返すと
「羊の歌」から3作をはさんだ前に「修羅街輓歌」があります。
献呈詩としてこの二つの詩は並んでいる(続いている)ということになるのです。
 
 
中原中也がこの配置に無意識であったなどとは
到底、考えられないことです。
 
そのことを明かすのが
CD「関口隆克が語り歌う中原中也」というCDのジャケットに収められた解説文です。
このCDを最近聴くことができ
関口隆克の肉声をたっぷり味わえたのですが
このCDの出版(発売)の経緯を
安原喜弘の長男である安原喜秀さんが書いています。
 
このCDの元になったテープが発見された経緯が書かれた部分をここに引用させていただいて
「中原中也の詩に出てくる『地名・人名』」の結びと致します。
 
 
(略)
このいきさつを述べるにはまず私の父・安原喜弘と関口氏との関係について触れねばならない。すでに知られているように、父と詩人・中原中也は生前親しい友人であった。その出会いは、父が尊敬していた先生(成城学園の小原国芳校長)のもとの成城高校時代からはじまっている。その後その親交は、父にとっては「生涯の大事件」というほど深い傷となって残った。
 
詩人の死後、戦争下をなんとか潜り抜けた父は戦後、先生から玉川学園に来て欲しいと懇請されて、そこで働いたものの、生活の困窮を強いられ、やむなく決別し妻子を抱え路頭に迷った。困り果てた父は、1953年の春、中原中也の縁で知遇を得ていた関口氏を訪ねた。
 
生活上の活路も開かれ、関口氏との直接の交流が再び始められた。
 
以後終生、父は「リュウコクさん(隆克を音読みにした呼称を父たちはつかっていた)のところに、子供の私や母を連れてお邪魔したり、ウマがあうとでもいうのか、親しいお付き合いを続けた。
 
父の死(1992年11月)後、私は父が語らず公表しなかったことを書き残しておこうと、中原中也に関する文献にも目をとおすうちに、詩人にとって関口氏と父はある種特別な友人ではなかったかと考えるようになった。その考えをあと押しするような証言が下記の、詩人の母・フクさんが語ったとされる次のことばである。
 
「それから、関口隆克さんは中也もいちばん好きな人だったし、ずいぶんお世話になった人ですが、やはり山口にきてくださいました。中也は人のことを、あれはどうじゃ、これはどうじゃというて、よう悪ういっておりましたけど、関口さんのことと安原さんのことは、いつでもほめておりました……」(中原フク述・村上護編「私の上に降る雪は~わが子中原中也を語る」1973年刊 P263)
(以下略)
 
 
明日4月29日は、詩人の誕生日。
生誕106年になります。
 
新聞・雑誌での言及や各種イベントが盛んに行われていますことを
心からうれしく思うこのごろです。
 
大岡昇平とは異なる見方の評価の動きが
遅々としながら起こっていることも
あらためて中原中也という詩人の現代性を証してうれしい限りです。

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