中原中也の詩に出てくる「人名・地名」 4
こんどは「未発表詩篇」に入ります。
角川全集などでははじめに配置されているのが
京都時代に作られたダダイズムの詩です。
ダダ詩に「地名」や「人名」は出てくるものでしょうか?
<ダダ手帖>
「ダダ音楽の歌詞」
(それを釈迦(しゃか)が眺めて
それをキリストが感心する)
※「釈迦(しゃか)」「キリスト」
<ノート1924>
古代土器の印象
「クリストの降誕(こうたん)した前日までに
カラカネの
歌を歌って旅人が
何人ここを通りましたか」
※「クリスト」「カラカネ」
◇
初 夏
アメリカの国旗とソーダ水とが
恋し始める頃ですね
※「アメリカ」
◇
(題を附けるのが無理です)
トランプの占いで
日が暮れました――
オランダ時計の罪悪です
※「オランダ時計」
◇
(バルザック)
バルザック
バルザック
腹の皮が収縮する
※「バルザック」
◇
浮浪歌
朝鮮料理屋がございます
目契(もっけい)ばかりで夜更(よふけ)まで
虹や夕陽のつもりでて、
※「朝鮮料理屋」
◇
(かつては私も)
偶性(ぐうせい)と半端(はんぱ)と木質(もくしつ)の上に
悲しげにボヘミヤンよろしくと
ゆっくりお世辞笑いも出来る
※「ボヘミアン」
◇
「ノート1924」の末尾には
ダダを脱皮しつつある詩篇がいくつかあります。
「ダダ手帖」は手帖そのものが残存しておらず
2篇の詩が印刷物になっていたおかげで残されたものです。
「ノート1924」51篇とあわせて53篇のうち
7篇に「地名・人名」は登場しました。
率として
極めて少ないことがわかりました。
ダダイズムは
リアリズムを内包するケースがあるにしても
地名や人名という「リアル」で限定されてしまうことを排除したのでしょうか。
「リアルな正体」を
中原中也のダダ詩は露出しようとしていません。
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