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「一筆啓上、中原フク様」昭和6年9月下旬

昭和6年9月下旬(推定)に
母・フクに宛てた封書は東京・千駄ヶ谷からのものと思われますが
発信地は書かれていません。
 
 
69 9月下旬(推定) 中原フク宛 封書
 
 10月分受取ました。
 恰三の病気また少しわるい由、心配でしょう。此の頃は明け方が寒いから御注意なさい。何分
気候不順なのが不可ないのでしょう。何卒、もともと長い病のことゆえ、一度には癒らないのです
から、あせらずゆっくり養生する様お伝え下さい。
 熱があるのですか。腹がはるのですか。お手紙には只少し悪いとだけあって一向に様子がわ
かりません。
 僕事毎日登校しています。先日講演を聴くために1時間欠席したほか、無欠席です。
 迷わないで食養療法を続けられる様希望します、
 皆々御大切に。お祖母さん達によろしく。
                    怱々
                     中也 
 
ここで終わったかに見えた手紙は
すぐには投函されなかったのか
追記が加えられます。
 
 
母上様
支那とゴタゴタが起りましたね。東京では毎日二三度号外が出ます。地震も可なりありますが、大
したことではありません。
 
本日有名な易者にみてもらいました、
恰三は今に丈夫になるそうです。こんなに丈夫になったかと驚くことがあるようになるそうです。し
かし来年1月頃まではハッキリしない状態が続くとか。
 
(※「新かな」「洋数字」に改めてあります。編者。)
 
 
「支那とゴタゴタ」は9月18日に勃発した満州事変。
「地震」は、9月21日に起こった西埼玉地震。
関東一帯をマグニチュード7.0が襲いました。
(新全集・第5巻解題篇)
 
「本日」以下は、小さな字で書かれているそうです。
弟への心配と母への心配が重なります。
 
……しかし、
恰三は、9月26日、死去します。

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