カテゴリー

« 中原中也のオノマトペ9「療養日誌・千葉寺雑記(1937年)」ほか | トップページ | 鳥が飛ぶ虫が鳴く・中原中也の詩2「山羊の歌」から »

鳥が飛ぶ虫が鳴く・中原中也の詩1「山羊の歌」から

中原中也の詩をまだ読んでいない人

少しは読んだことのある人

これから初めて読もうとしている人

もう一度じっくり読んでみたい人

読もう読もうと思いながらもきっかけを掴めなかった人

文庫詩集を買った人

本棚の奥にしまい込んである人

むかし教科書で読んだだけの人

……

 

 

ビギン・ワンスモア!

ビギン・ビギナー!

 

 

こんな感じで「ひとくちメモ」を続けていきます。

「色の色々」「オノマトペ」に続いては

「鳥が飛ぶ 虫が鳴く 中原中也の詩」と題して

中原中也の詩に現われる動物を見ます。

 

角川版全集の配列にしたがって

鳥獣虫魚(ちょうじゅうちゅうぎょ)を順にピックアップするだけのことですが

気が向くまま赴(おもむ)くままに

感想を入れたり入れなかったりのメモに過ぎませんから

お気軽お気楽にお読み下さい。

 

 

ではさっそく「山羊の歌」から見ていきます。

現代かな遣いで表記します。

現われ方を見るために

行単位で、時には連を丸ごと取り上げるケースもあるでしょう。

 

 

「春の日の夕暮」

馬嘶(いなな)くか――嘶きもしまい

 

「サーカス」

観客様はみな鰯(いわし)

  咽喉(のんど)が鳴ります牡蠣殻(かきがら)と

 

「春の夜」

埋(うず)みし犬の何処(いずく)にか、

  蕃紅花色(さふらんいろ)に湧(わ)きいずる

      春の夜や。

 

「朝の歌」

小鳥らの うたはきこえず

  空は今日 はなだ色らし、

 

「臨 終」

秋空は鈍色(にびいろ)にして

黒馬(くろうま)の瞳のひかり

 

「秋の一日」

軟体動物のしゃがれ声にも気をとめないで、

紫の蹲(しゃが)んだ影して公園で、乳児は口に砂を入れる。

 

 

「秋の一日」の冒頭連に

こんな朝、遅く目覚める人達は

戸にあたる風と轍(わだち)との音によって、

サイレンの棲む海に溺れる。


――とある「サイレン」はギリシア神話やホメロスの「オデッセイア」に登場する上半身が女性、下半身が鳥の姿をした魔物(女)。「鳥獣虫魚」や動物の類ではありません。「セイレーン」とか「シレーヌ」とかと訳されることもあります。ウーウーウーの音を出す消防車のサイレンの語源でもあり、神話のサイレンは美しい声で歌い、船人を誘惑します。オデッセウスがサイレンの誘惑を避けるために自分をマストに縛りつけて通り過ごしたという有名な話が伝わります。

 

« 中原中也のオノマトペ9「療養日誌・千葉寺雑記(1937年)」ほか | トップページ | 鳥が飛ぶ虫が鳴く・中原中也の詩2「山羊の歌」から »

鳥が飛ぶ虫が鳴く・中原中也の詩」カテゴリの記事