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「一筆啓上、安原喜弘様」昭和10年4月29日

「転機」と安原が呼んだものの理由は
ほぼ2点にまとめられています。
 
その一つ。
「詩人の身辺に寄り添」うことの「必要」がなくなり、
「無用となるばかりか、詩人にとって負い目とすらなりつつあることを感じ出した」という理由。
家庭を持ち一児をもうけ、交友範囲も広がり、詩名も浸透しはじめたために
これまでと同じような関係を持続する意味がなくなったと感じた――。
 
「一人場末のおでん屋などで酒に親し」む日々。
 
もう一つは、
昭和8年1月を頂点とする「詩人の魂の動乱時代」に、
いつのまにか生じていたらしい詩人の私への疑惑、誤解。
それを思いがけなくも知った安原が
身の証を立てる決意に至った。
そして、詩人の周囲から身を引き、少しずつ離脱しようとしていた。
「青春との決別」を自身試みた――。
 
「一人だけの世捨人となった。」
 
 
ここはやはり安原の言葉で
読んでおきましょう。
 
一つ目の理由。
 
 
 昭和3年秋以来6年半に渡る詩人と私との交友にも今漸く転機が訪れた。
 
 詩人は家庭生活に入り、1児をもうけ、その交友の範囲も次第に拡がり、詩名も漸く一部の人々の間に認められるところとなった。この間私は私なりに唯一筋の心情を以て詩人の身辺に寄り添い、それは謂わば極めて個人的な雰囲気の中での持続であったのだが、この様な私の心情も私のささやかな努力も今はその必要を失った。心届かず、無能で失敗ばかりであった私の介抱も最早無用となりそれは寧ろ詩人のとって大きな負い目とすらもなりつつあることを私は感じ出していた。私もまた漸く疲労と困憊の極にあり、時偶友人の関係する劇団などの仕事に引張り出される他は一人場末のおでん屋などで酒に親しんで暮す日が多く続いた。
 
 
二つ目の理由。
 
 
 尚又、昭和8年の1月頃を絶頂とする彼の魂の動乱時代、日々のあわただしい行き来の間にふと生じた様々な疑惑――私は彼の些細な思い違いとしてその時限り跡かたもなく忘れ去っていたのだが――が私に対しても解き得ぬ誤解としてその儘彼の心に残り、彼の心の淵深く固定しているのを思いがけなくも知った時、私は唯々呆然とするばかりであったのだが、私は何か身の証をたてたいと希い、既に或る決意をしたのである。私は彼の周囲から身を引きつつあった。殊更らにそれと気付かぬ如く、意識して少しずつ詩人の世界から離脱しつつあった。私は華やかでもない私の青春の激情と一と度訣別し更めて当てのない旅路に向って一人ひそかに逍遥(さまよ)い出すのであった。私はこうして次第に独りの生活に沈み込んだ。嘗つて燃えたささやかな希望も捨て、私はこの時より謂わば一人の世捨人となった。
 
(講談社文芸文庫「中原中也の手紙」より。)
 
 
そうはいっても時々2人は落ち合います。
詩人が電話で安原を呼び出すのです。
 
「それは私がひそかな孤独に浸れば浸るほど愈々温かい心づかい」を安原に感じさせたのですが
 
今私達も互いに離れて眺め合う機会が次第に多くなりつつあった。私達の波瀾に満ちた苦難の遍歴も茲に終ったのである。
――と総括されるような段階でした。
 
 
これら総括文が記されたのは
次の「4月29日の手紙」への導入のためでした。
4月29日以降の手紙への序章といえます。
 
「手紙90 4月29日 (封書)」のコメントでは
「私達の在り方に対する痛烈な批判」と安原は呼んでいますが
この「痛烈な批判」を読む前に
「転機」を告げ
「苦難の遍歴の終わり」を予告したのです。
 
 
そして、さらに次の「手紙91 6月5日 (封書)」のコメントでは
 
私は次に、今手許に残された僅かの手紙により、私にとってはまことに心重い彼の昇天に至る最後の2年間をあわただしく叙(かた)り終ろうとする。
――と記して
「中原中也の手紙」の最終章へと進んで行くことになります。

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