きらきら「初期詩篇」の世界/9「夏の日の歌」
その1
詩人が拠(よ)って立つところ。
帰る場所。
それは詩の在処(ありか)でもありました。
「秋の一日」に「布切屑(きれくず)」と明示され
「黄昏」では「一歩二歩」の行く先に
「帰郷」では「おまえはなにをして来たのだ」と歌う、
その「なに」にそれはあります。
◇
「凄まじき黄昏」
「逝く夏の歌」
「悲しき朝」
――と配置された詩の一つ一つにも
それを読み取ることができることでしょう。
「夏の日の歌」にも
それはあります。
◇
夏の日の歌
青い空は動かない、
雲片(ぎれ)一つあるでない。
夏の真昼の静かには
タールの光も清くなる。
夏の空には何かがある、
いじらしく思わせる何かがある、
焦(こ)げて図太い向日葵(ひまわり)が
田舎(いなか)の駅には咲いている。
上手に子供を育てゆく、
母親に似て汽車の汽笛は鳴る。
山の近くを走る時。
山の近くを走りながら、
母親に似て汽車の汽笛は鳴る。
夏の真昼の暑い時。
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。「新かな」に変え、一部「ルビ」を加えました。編者。)
◇
第1連の全行や
第2連、
夏の空にはなにかがある
――に明らかですが
いじらしく思わせる何かがある、
――と続けられて
この詩はやや「限定」された方向に向かうかのようです。
◇
「山羊の歌」の「初期詩篇」の中に
昭和8年10月1日発行の「紀元」に発表された詩が配置されました。
それが「夏の日の歌」です。
「山羊の歌」は
昭和7年6月には編集が終わっているのですから
それよりも後に発表された詩が収録されたことになります。
これは「山羊の歌」が長い難産の末に
昭和9年11月に発行されたことに起因しています。
「夏の日の歌」の初稿は
「山羊の歌」編集の最終段階である昭和7年6月頃に制作され
「初期詩篇」に配置されたのですが
「山羊の歌」の発行が遅れている間に
「紀元」創刊号に発表したということです。
「初期詩篇」の中では
最も新しい作品ということになります。
◇
「白痴群」でもなく
「生活者」でもなく
「スルヤ」でもなく
「紀元」からの採用というマイナーケースは
ほかに「春の日の夕暮」が「半仙戯」発表の後の配置があるだけです。
◇
「凄じき黄昏」から二つおいて
「夏の日の歌」が置かれました。
この対照的な詩の存在によって
「山羊の歌」の「初期詩篇」は
きらきらときらきらと輝く詩世界を作り出しました。
その一つの要因となりました。
◇
その2
詩人が拠(よ)って立つところ。
帰る場所。
それは詩の在処(ありか)でもありました。
「秋の一日」に「布切屑(きれくず)」と明示され
「黄昏」では「一歩二歩」の行く先に
「帰郷」では「おまえはなにをして来たのだ」と歌う、
その「なに」にそれはあります。
◇
「凄まじき黄昏」
「逝く夏の歌」
「悲しき朝」
――と配置された詩の一つ一つにも
それを読み取ることができることでしょう。
「夏の日の歌」にも
それはあります。
◇
夏の日の歌
青い空は動かない、
雲片(ぎれ)一つあるでない。
夏の真昼の静かには
タールの光も清くなる。
夏の空には何かがある、
いじらしく思わせる何かがある、
焦(こ)げて図太い向日葵(ひまわり)が
田舎(いなか)の駅には咲いている。
上手に子供を育てゆく、
母親に似て汽車の汽笛は鳴る。
山の近くを走る時。
山の近くを走りながら、
母親に似て汽車の汽笛は鳴る。
夏の真昼の暑い時。
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。「新かな」に変え、一部「ルビ」を加えました。編者。)
◇
第1連の全行や
第2連、
夏の空にはなにかがある
――に明らかですが
いじらしく思わせる何かがある、
――と続けられて
この詩はやや「限定」された方向に向かうかのようです。
◇
「山羊の歌」の「初期詩篇」の中に
昭和8年10月1日発行の「紀元」に発表された詩が配置されました。
それが「夏の日の歌」です。
「山羊の歌」は
昭和7年6月には編集が終わっているのですから
それよりも後に発表された詩が収録されたことになります。
これは「山羊の歌」が長い難産の末に
昭和9年11月に発行されたことに起因しています。
「夏の日の歌」の初稿は
「山羊の歌」編集の最終段階である昭和7年6月頃に制作され
「初期詩篇」に配置されたのですが
「山羊の歌」の発行が遅れている間に
「紀元」創刊号に発表したということです。
「初期詩篇」の中では
最も新しい作品ということになります。
◇
「白痴群」でもなく
「生活者」でもなく
「スルヤ」でもなく
「紀元」からの採用というマイナーケースは
ほかに「春の日の夕暮」が「半仙戯」発表の後の配置があるだけです。
◇
「凄じき黄昏」から二つおいて
「夏の日の歌」が置かれました。
この対照的な詩の存在によって
「山羊の歌」の「初期詩篇」は
きらきらときらきらと輝く詩世界を作り出しました。
その一つの要因となりました。
|
|
« きらきら「初期詩篇」の世界/8「凄じき黄昏」 | トップページ | きらきら「初期詩篇」の世界/10「夕照」 »
「きらきら「初期詩篇」の世界」カテゴリの記事
- <きらきら「初期詩篇」の世界 インデックス>(2014.11.12)
- きらきら「初期詩篇」の世界/12「宿酔」(2014.02.07)
- きらきら「初期詩篇」の世界/11「ためいき」(2014.02.07)
- きらきら「初期詩篇」の世界/10「夕照」(2014.02.07)
- きらきら「初期詩篇」の世界/9「夏の日の歌」(2014.02.07)