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冬の思い

 
僕等冬には薔薇色の、車に乗って行きましょう
    中には青のクッションが、一杯の。
僕等仲良くするでしょう。とりとめもない接唇の
    巣はやわらかな車の隅々。
 
あなたは目をば閉じるでしょう、窓から見える夕闇を
    その顰(しか)め面を見まいとて、
かの意地悪い異常さを、鬼畜の如き
    愚民等を見まいとて。
 
あなたは頬を引ッ掻かれたとおもうでしょう。
接唇(くちづけ)が、ちょろりと、狂った蜘蛛のように、
    あなたの頸を走るでしょうから。
 
あなたは僕に云うでしょう、『探して』と、頭かしげて、
僕等蜘蛛奴(め)を探すには、随分時間がかかるでしょう、
    ーーそいつは、よっぽど駆けまわるから。
 
一八七〇、十月七日、車中にて。
 
 
 
 

ひとくちメモ その1

「冬の思い」Rêvé pour I’hiverは
「1870年10月7日」の日付けを持つ詩です。

1870年という年にランボーは
どのような暮らしをしていたか
ここで少し年譜をひもといておきます。

1870年10月20日に16歳になります。
普仏戦争が起こった年です。

8月29日、パリへ出奔。その傍若無人な挑戦的態度と言行によって警吏を怒らせ、ために数日間牢獄につながる。イザンバールの救援により出獄、伴われてドウエなる師の家に約半カ月とどまる。母のせつなる請いを容れ、9月27日不本意ながらシャルルヴィルなる生家へ帰る。

10月7日、徒歩ベルギーへむかってまたまた出奔、ふたたびイザンバールに伴われて11月2日帰家。

シャルルヴィルにとどまる。
エルネスト・ドラエと交わる。
凡俗な地方人に対する嫌悪の情いよいよつのる。

――と記すのは、堀口大学訳「ランボー詩集」(新潮文庫)巻末の「ランボー略伝」です。

この略伝中に「10月7日、徒歩ベルギーへむかってまたまた出奔」とある日と
「冬の思い」末尾に記された日付けが一致しますから
「2度目の出奔」の時に
この詩が作られたものと見て間違いはありません。

ランボー詩に
放浪詩篇と呼ばれている一群の詩がありますが
「冬の思い」もその一つということになります。

ひとくちメモ その2

中原中也が訳した「冬の思い」Rêvé pour I’hiverは
「新字・新かな」に表記しただけで
ほとんどひっかかりもなく読める
モダンさを帯びた作品です。

冒頭の「車」を「自動車」と取らないで
「列車」と取れば
ぼくたちが、列車のあっちこっちでキスしハグし、
隅々までやわらかなベッドと化す光景が見えます。

旅する季節は冬ですが
詩の現在は秋です。
つまり
「冬になったら……」を仮定した
アバンチュールの夢想が歌われているのです。

といえば
中原中也の創作詩「湖上」がすぐさま想起されますね。
ランボーの詩の影響下に
「湖上」は作られたということなのかもしれません。

冬の思い

ぼくら、冬になれば、薔薇色の列車に乗って行きましょう
中には青いクッションが、いっぱいの列車で。
ぼくら、仲よくするでしょう。することといったらキスばかり
愛の巣でやわらかになってる列車の隅々。

君は瞳を閉じるでしょう、窓から見える夕闇を
そのしかめっ面のような(夕焼け)を見ないように、
あの意地悪い異常なほどの、鬼畜のような
愚民らを見ないように。

君は頬を引っ掻かれたとでも思うでしょう。
キスが、ちょろりと、狂ったクモのように、
君の首すじを走るでしょうから。

君はぼくに言うでしょう、「探して」と、頭をかしげて、
ぼくら、クモの奴らを探すには、ずいぶん、時間がかかるでしょう。
――そいつは、まったくよく駆け回るから。
             1870年10月7日、車中で。

秋に、冬の旅を夢想する――。
クモが現われ、恋人の首すじを走るかと思えば、
それはキスの象徴表現だった――。
ロマンスにもクセがあります。

恋愛詩といってもよいでしょうし
放浪詩篇ともいえる詩ですが
ランボーの仕掛けは
分類を超えるものがあります。

 *

 冬の思い

僕等冬には薔薇色の、車に乗って行きましょう
    中には青のクッションが、一杯の。
僕等仲良くするでしょう。とりとめもない接唇の
    巣はやわらかな車の隅々。

あなたは目をば閉じるでしょう、窓から見える夕闇を
    その顰め面を見まいとて、
かの意地悪い異常さを、鬼畜の如き
    愚民等を見まいとて。

あなたは頬を引ッ掻かれたとおもうでしょう。
接唇(くちづけ)が、ちょろりと、狂った蜘蛛のように、
    あなたの頸を走るでしょうから。

あなたは僕に云うでしょう、『探して』と、頭かしげて、
僕等蜘蛛奴(め)を探すには、随分時間がかかるでしょう、
    ――そいつは、よっぽど駆けまわるから。
          一八七〇、十月七日、車中にて。

※底本を角川書店「新編中原中也全集」とし、新漢字・現代かな遣いで表記しました。また、ルビは原作にあるもののみを( )の中に表示しました。編者。

<新漢字・歴史的かな遣い版>
 冬の思ひ

僕等冬には薔薇色の、車に乗つて行きませう
    中には青のクッションが、一杯の。
僕等仲良くするでせう。とりとめもない接唇の
    巣はやはらかな車の隅々。

あなたは目をば閉ぢるでせう、窓から見える夕闇を
    その顰め面を見まいとて、
かの意地悪い異常さを、鬼畜の如き
    愚民等を見まいとて。

あなたは頬を引ツ掻かれたとおもふでせう。
接唇(くちづけ)が、ちよろりと、狂つた蜘蛛のやうに、
    あなたの頸を走るでせうから。

あなたは僕に云ふでせう、『探して』と、頭かしげて、
僕等蜘蛛奴(め)を探すには、随分時間がかかるでせう、
    ――そいつは、よつぽど駆けまはるから。
          一八七〇、十月七日、車中にて。

※底本を角川書店「新編中原中也全集」としました。ルビは原作にあるもののみを( )の中に表示しました。編者。

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