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ラフォルグ<3>でぶっちょの子供の歌へる

中原中也が翻訳したラフォルグの詩は
3作品ありまして
いずれも
未発表の草稿で
未定稿として分類されていますが
まずはとにかくそれらを読んでみます。
 
「謝肉祭の夜」の次の
「でぶっちょの子供の歌へる」は
心臓に病のある幼児を歌った詩。
 
 
(つづく)
 
 *
でぶっちょの子供の歌へる
 
          ジュール・ラフォルグ
 
お亡くなりになつたのは
心臓病でです、お医者は僕にさう云つたけが、
   ティル ラン レール!
   気の毒なママ。
僕もあの世に行つてしまはう、
ママと一緒にねんねをするんだ。
ホラ、ね、鳴つてら、僕の心臓、
きつとだ、ママが呼んでゐるんだ!
 
往来で、みんなは僕を嗤(わら)ふんだ、
僕の様子が可笑しんだつて
   ラ イ トウ!
   知るもんか。
あゝ! でも一歩(ひとあし)あるくたんびに
息は切れるし、よろよろもする!
ホラ、ね、鳴つてら、僕の心臓、
きつとだ、ママが呼んでゐるんだ!
 
それで野原に僕は行くんだ
夕陽が見えると泣けて来るんだ 
   ラ リ レット!
   泣けてくるんだ。
よく知らないけど、だつて夕陽は
流れる心臓みたいぢやないか!
ホラ、ね、鳴つてら、僕の心臓、
きつとだ、ママが呼んでゐるんだ!
 
あゝ! もし可愛いいジュヌヴィエーヴが
この心臓をお呉れといつたら、
   ピ ル イ!
   あいよだ!
僕は黄色で悲しげなんだ!
彼女は薔薇色、おまけに陽気さ!
ホラ、ね、鳴つてら、僕の心臓、
きつとだ、ママが呼んでゐるんだ!
 
だいたいみんなが意地悪過ぎらあ、
夕陽を除(ど)けたらみんな意地悪だ、
   ティル ラン レール!
夕陽とママと、
僕もあの世に行つてしまはう
ママと一緒にねんねをするんだ……
ホラ、ね、ホラ、ホラ、僕の心臓……
ね、ママ、僕を呼んでるのでせう?
 
(「中原中也全訳詩集」講談社文芸文庫より)

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