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中原中也の詩に出てくる「人名・地名」19(まとめ)

中原中也の詩に現われる日本人を見ています。
 
 
【丹下左膳】(たんげさぜん)は、林不忘(はやしふぼう)の新聞小説に登場する隻眼隻腕(せきがんせきわん)の剣術使いのことですが、映画化されて、一躍時代のヒーローとなった架空の人物です。中原中也は、おそらく映画で見たか、映画の案内を新聞・雑誌で読んだかして、丹下左膳のことを知ったのであろうと推察されます。嵐寛寿郎、大河内伝次郎、阪東妻三郎、大友柳太朗といった俳優が次々に左膳を演じ、国民的人気を博しました。
 
【大高源吾】(おおたかげんご)は、討ち入りで名高い赤穂四十七士の一人。藩主の浅野長矩(あさの・ながのり)の死後、江戸に出て脇屋新兵衛と変名し吉良義央(きら・よしなか)邸をうかがった浪士として有名です。討ち入り後に切腹しました。俳人でもあり、子葉と号した実在の人物です。
 
【三富朽葉】は「みとみ・くちは」または「みとみ・きゅうよう」と読みます。1889年(明治22年)生まれ1917年(大正6年)没の詩人。フランス象徴詩に関する評論を翻訳し、論文を著しました。中原中也は、昭和9年9月に書いた未発表評論「無題(自体、一と息の歌)」に、「後期印象派の要求が要望される限り、明治以来今日に到るまで、辛うじて三富朽葉と、岩野泡鳴を数えることしか出来ないように思われる」などと述べています。また、昭和11年(1936年)10月30日の日記に、「先達から読んだ本。リッケルトの「認識の対象」。コフマンの「世界人類史物語」。「三富朽葉全集」。「パスカル随想録(抄訳)」。「小林秀雄文学読本」。「深淵の諸相」。「芭蕉の紀行」少し。」――などと記しました。全集を仕入れるほど、三富朽葉は、岩野泡鳴らとともに、ランボーなどフランス詩の翻訳に没頭していた詩人に必読書のようでした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
中原中也の詩に出てくる「人名・地名」21・まとめ15
 
【松井須磨子】(まつい すまこ)といえば、なんといっても「カチューシャの唄」を歌った女優として有名です。1913年(大正2年)、劇作家・詩人島村抱月とともに芸術座を旗揚げ、トルストイの「復活」翻案劇の中で「カチューシャの唄」を歌ったところ大評判になり、以後、須磨子は劇以外の場所でもこれを歌い、レコードも出しました。妻子ある抱月との恋愛でも話題になっていましたが、抱月がスペイン風邪をこじらせて急逝した翌1919年、後を追って自殺したことが伝わっています。1886年(明治19年)生まれですから、30代半ばでの生涯でした。
 
松井須磨子は、「脱毛の秋 Etudes」第8連に登場します。その部分を読んでおきましょう。
 
   8
とある六月の夕(ゆうべ)、
石橋の上で岩に漂う夕陽を眺め、
橋の袂(たもと)の薬屋の壁に、
松井須磨子のビラが翻(ひるがえ)るのをみた。
 
――思えば、彼女はよく肥っていた
綿のようだった
多分今頃冥土(めいど)では、
石版刷屋の女房になっている。――さよなら。
 
 
【白秋】はむろん「北原白秋」のことです。1885年(明治18年)1月25日生まれ1942年(昭和17年)11月2日没。詩人であり童謡作家であり歌人でもありました。松井須磨子より1年早い生まれです。明治末から大正、昭和初期・中期に多方面で活躍し、終戦をむかえる前に亡くなりました。詩集「邪宗門」「思ひ出」「東京景物詩」「白金之独楽」「水墨集」「海豹と雲」など、歌集「桐の花」「雲母集(きららしゅう)」「白南風(しらはえ)」「黒檜(くろひ)」など、童謡集「からたちの花」「トンボの眼玉」を残しました。ほかにも、「松島音頭」、「ちゃっきり節」などの民謡や、童謡の多くは現在も歌い継がれています。国民的愛唱歌になっている童謡には、「雨降り」「ゆりかごのうた」「砂山」「からたちの花」「この道」「ペチカ」「あわて床屋」「待ちぼうけ」「城ヶ島の雨」などがあります。
 
萩原朔太郎が第1詩集「月に吠える」を出版して詩壇に衝撃を与えたのは大正6年ですが、この詩集の序文を白秋が書いて応援したのも有名なことです。中原中也は、やがて「四季」を通じて萩原朔太郎の知遇を得ることになりますが、白秋と会うことはありませんでした。

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