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中原中也の詩に出てくる「人名・地名」13

中原中也の詩に現われる「地名・人名」を見ていますが
今度は「人名」に目を向けます。
 
 
【サイレン】とか【マルガレエテ】とか【ピョートル大帝】とか
【ボードレール】とか【ソロモン】【バッハ】【モツアルト】とか……
 
これらは第1詩集「山羊の歌」の詩篇に出てくる名前なので
詩のタイトルさえパッと浮かんでくるほどに
馴染(なじ)みのあるものばかりです。
 
 
【サイレン】は、「山羊の歌」中の「秋の一日」と「在りし日の歌」中の「正午」とに出てきます。どちらも語源は同じものですが、意味は異なります。
 
「正午」のサイレンは、ウーウーウーという警笛の音で知られるサイレン。消防車や救急車やパトカーなどで使われる警報音のことです。
 
「秋の一日」のサイレンは、古代ギリシア神話で、旅人を美しい声で魅惑する半人半鳥の怪物として登場します。神話を題材にして、ホメロスが「オデッセイア」を書いた中にサイレンを登場させ、主人公オデッセウスがサイレンの住む島を通過するとき、自らをマストに縛りつけ、耳を塞(ふさ)いで、サイレンの誘惑から身を守った冒険譚に仕立てました。「君子危うきに近寄らず」の西洋版です。「オデッセウスの知恵」は、ホメロスのこの劇によって世界中に広まりましたが、同時にサイレンの存在も伝わりました。
 
【マルガレエテ】は、ゲーテの悲劇「ファウスト」に登場するファウストの恋人グレートヒェンの正規な名称です。
 
グレートヒェンは愛称。マルガレエテは、敬虔(けいけん)なクリスチャンですが、ファウストと恋に落ち、ファウストとの逢い引きの邪魔になる母親を誤まって死なせてしまいます。
 
悪魔メフィストの案内でファウストが「ワルプルギスの夜」に酔いしれている間、ファウストの子を産んだマルガレエテは、私生児として育てねばならない苦境の中で発狂状態になり、わが子を殺してしまい、獄に繋がれてしまう。それを知ったファウストは、マルガレエテを救おうとするが、悪魔メフィストと組んだファウストの助けを拒み、獄死します。
 
「子殺し」のテーマが流れるゲーテの作品を、中原中也はどのように読んだのか定かではありませんが、「深夜の思い」の第3連、黒き浜辺にマルガレエテが歩み寄(よ)する/ヴェールを風に千々(ちぢ)にされながら。彼女の肉(しし)は跳び込まねばならぬ、厳(いか)しき神の父なる海に!――は、ゲーテの原作の忠実な読みを物語っています。
 
神の裁きを受けねばならないマルガレエテには、自分から離れていった泰子がかぶさっています。泰子を希求するあまり、泰子への断罪が下ることを望むというウラハラな気持ちがこの詩には表現されています。
 
「深夜の思い」を読んでおきましょう。
 
 
深夜の思い
 
これは泡立つカルシウムの
乾きゆく
急速な――頑(がん)ぜない女の児の泣声(なきごえ)だ、
鞄屋(かばんや)の女房の夕(ゆうべ)の鼻汁だ。
 
林の黄昏は
擦(かす)れた母親。
虫の飛交(とびか)う梢(こずえ)のあたり、
舐子(おしゃぶり)のお道化(どけ)た踊り。
 
波うつ毛の猟犬見えなく、
猟師は猫背を向(むこ)うに運ぶ。
森を控えた草地が
  坂になる!
 
黒き浜辺にマルガレエテが歩み寄(よ)する
ヴェールを風に千々(ちぢ)にされながら。
彼女の肉(しし)は跳び込まねばならぬ、
厳(いか)しき神の父なる海に!
 
崖の上の彼女の上に
精霊が怪(あや)しげなる条(すじ)を描く。
彼女の思い出は悲しい書斎の取片附(とりかたづ)け
彼女は直(じ)きに死なねばならぬ。
 
 
【ピョートル大帝】はロシアの皇帝。ロマノフ朝第5代皇帝として1682年から1725年まで在位し、ヨーロッパを征服する野望をもっていたといわれます。
 
2メートルの長身にまつわる逸話とともに、海外学術の導入・普及、ロシア国家の改革、強大な権力行使を行った人物として知られています。
 
「ためいき」のためいきの「旅」は、最後にピョートル大帝の目玉が遠くの雲の中に光っている、というシーンで閉じる詩ですが、ためいきが「詩」そのものであるならば、ピョートル大帝の目玉である「詩」というメタファーには深い含意が込められていることが理解できるでしょう。
 
【Cathèrine de Mèdicis】 は「カトリーヌ・ド・メディシス」のこと。16世紀フランスの王妃。

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