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生きているうちに読んでおきたい名作たち13・「永訣の秋」存在のわかれ・「村の時計」

その1

「或る夜の幻想」のうち
「1 彼女の部屋」「3 彼女」は除外され
「2 村の時計」は同じタイトルで「村の時計」として
「4 或る男の肖像」「5 無題」「6 壁」は「或る男の肖像」として
独立した詩に仕立てられました。

「村の時計」は「永訣の秋」の中で
「月の光」と「冬の長門峡」の間に
「或る男の肖像」とともに配置されています。

原形詩「或る夜の幻想」の構造を知れば
詩人の意図が少し理解できた気がしますが、
もうすこし「村の時計」はなぜ「永訣の秋」に選ばれたのかを考えてみましょう。

なぜこの詩はここにあるのでしょうか?

「永訣の秋」のほかの作品とくらべて
どことなく影の薄い感じのするこの詩が
なぜここに選ばれたのでしょう。

「村の時計」を
何度も何度も読んでいると
ようやく浮かんでくることがあります。

どこか覚えのある存在――。
存在感のうすい存在――。

「永訣の秋」のページをめくれば
そのような存在がいくつかあるのに気づきます。

私の頭の中に棲んでいた薄命そうなピエロ(幻影)
遠い彼方で夕陽にけぶっていたフィトル(号笛)の音のように繊弱なあれ(言葉なき歌)
月夜の晩の浜辺に落ちていたボタン(月夜の浜辺)
……
「或る男の肖像」の男も影がうすく、すでに死んでいました――。
……
「米子」のかぼそい声の女もそうです――。

ひっそりと、おとなしく
どっこい生きている!
(「或る男の肖像」の男は死んでしまいましたが、詩に語られているのは生前です)

これら存在感のない
影がうすい存在――ヒト・モノ・コト。

 

「村の時計」もこれらの仲間です。

その2

(前回からつづく)

「村の時計」は

一日中休むことなく働いていて
字板のペンキにはつやがなく
近くで見れば細(こま)かなひび割れがあり
夕方の陽にあたっておとなしい色合いをしていて
時刻を鳴らすときにはゼーゼーと音を出し
その音はどこから出ているのか誰にもわからない

――とだけを述べた詩です。

だからどうしたというような感想は見当たりませんし
風景の一つも歌われていませんが
どこかの村の役場だとか教会だとかの広場みたいなところにある
ゼンマイ仕掛けの大きな時計を思い浮かべることができ
その時計は村人たちに目立って感謝されているわけでもないけれど
日々の暮らしに欠かせない役割をこなしている
確実で誠実で安定した頼りがいのある存在であることをイメージできるでしょう。

世界中の村のどこにでも
このような大きくて古ぼけていながら
現役として働いている老兵のような時計が存在する――と
誰しもが抱いている古い記憶を呼び起すことだけが
この詩には重要な役目であるかのようです。

「村の時計」は
連詩「或る夜の幻想」の構造を見れば分かるように
「彼」に関しての詩の一部でした。
「彼女」についての部分と「彼」についての部分で構成された詩の
「彼」の部分に属する詩でした。

それが分解されて
「彼」は独立しました。

この「彼」とは
私の頭の中に棲んでいた薄命そうなピエロ(幻影)
――のピエロのようであり(そのピエロを思う私のようであり)、
遠い彼方で夕陽にけぶっていたフィトル(号笛)の音のように繊弱なあれ(言葉なき歌)
――のようであり(それを待ち望んでいる詩人のようであり)、
月夜の晩の浜辺に落ちていたボタン(月夜の浜辺)
――のボタンのようであり(それを拾った僕=詩人のようであり)、
注意していないと見過ごしてしまいそうに存在感のうすいヒト・モノ・コトの仲間でした。

やがて「彼」は
「或る男の肖像」に姿形を変えますが
そこではすでに死んだ男として現われ
さらには「米子」の女性になり
最後には「蛙声」の蛙になります――。

村の時計
 
村の大きな時計は、
ひねもす働いてゐた

その字板(じいた)のペンキは
もう艶が消えてゐた

近寄つて見ると、
小さなひびが沢山にあるのだつた

それで夕陽が当つてさへか、
おとなしい色をしてゐた

時を打つ前には、
ぜいぜいと鳴つた

 

字板が鳴るのか中の機械が鳴るのか
僕にも誰にも分らなかつた

 

 

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