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暗い天候(二・三)

 
   二

こんなにフケが落ちる、
   秋の夜に、雨の音は
トタン屋根の上でしている……
   お道化(どけ)ているな――
しかしあんまり哀しすぎる。

犬が吠える、虫が鳴く、
   畜生(ちくしょう)! おまえ達には社交界も世間も、
ないだろ。着物一枚持たずに、
   俺も生きてみたいんだよ。

吠えるなら吠えろ、
   鳴くなら鳴け、
目に涙を湛(たた)えて俺は仰臥(ぎょうが)さ。
   さて、俺は何時(いつ)死ぬるのか、明日(あした)か明後日(あさって)か……
――やい、豚、寝ろ!

こんなにフケが落ちる、
   秋の夜に、雨の音は
トタン屋根の上でしている。
   なんだかお道化ているな
しかしあんまり哀しすぎる。

   三

この穢(けが)れた涙に汚れて、
今日も一日、過ごしたんだ。

暗い冬の日が梁(はり)や壁を搾(し)めつけるように、
私も搾められているんだ。

赤ン坊の泣声や、おひきずりの靴の音や、
昆布や烏賊(するめ)や洟紙(はながみ)や首巻や、

みんなみんな、街道沿(かいどうぞ)いの電線の方へ
荷馬車の音も耳に入らずに、舞い颺(あが)り舞い颺り

吁(ああ)! はたして昨日が晴日(おてんき)であったかどうかも、
私は思い出せないのであった。
 

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ひとくちメモ

「暗い天候(二・三)」は

昭和5年1月1日発行の「白痴群」第5号に

「暗い天候三つ」というタイトルで発表された

3節構成の詩でしたが

「山羊の歌」に第1節が

「冬の雨の夜」のタイトルで収録されて以後

独立した詩として扱われるようになりました

「暗い天候(二・三)」と表記される由来です。

「白痴群」第5号には

「暗い天候三つ」とともに

「修羅街輓歌」

「みちこ」

「嘘つきに」の3篇が掲載され

別に「我が祈り」と

中原中也訳のヴェルレーヌ「ポーヴル・レリアン」も掲載されています。

「暗い天候(二・三)」は

「白痴群」が昭和5年1月の発行であり

「二」に「秋の夜」

「三」に「暗い冬の日」とあることから

昭和4年(1929年)11月に

制作されたものと推定されます。

秋の夜に降る雨が

何日も何日もやむ気配もなく続いた

長雨の季節だったのでしょうか。

原形詩の第1節である「冬の雨の夜」には

「萎れ大根の陰惨さ」のフレーズがあり

死んだ乙女達の

「aé,ao,aé,ao,aéo,éo!」の唱和が鮮烈ですが

これらの詩句の暗鬱な気分が

「暗い天候(二・三)」にも続いています。

しかし

こんなにフケが落ちる、

とは、暗鬱にしても

ダダっぽいですね

そして

トタンを叩く雨の音は

お道化ているように聞えながら

哀しすぎる

と、暗鬱一本槍に走りません。

着物一枚持たずに、

   俺も生きてみたいんだよ。

と、犬や虫に向って

叫んでいるのも

やぶれかぶれの響きがありますし

やい、豚、寝ろ!

も、酔っ払って

誰彼となくほざいているみたいな

捨て鉢な感じでありますが

哀しすぎるのです。

「白痴群」は

この詩が載った第5号の納会で

詩人と大岡昇平の喧嘩があったことで

有名です。

富永次郎に罵声を浴びせた詩人が

いまにも取っ組み合いをはじめようとしていたところに

大岡が間に入って

「表へ出ろ」となった喧嘩のくだりは

大岡昇平の「朝の歌」中「白痴群」に

詳しく記録されています。

この事件も一つの原因となって

「白痴群」は次の第6号を発行して

廃刊となってしまいます。

「暗い天候(二・三)」にも

「白痴群」内部のストレスが

反映されていないはずがありません。

赤ン坊の泣声や、

おひきずりの靴の音や、

昆布や

烏賊(するめ)や

洟紙(はながみ)や

首巻や、

と、さらにダダっぽい語句を

織り交ぜて

笑い飛ばしてみたいような哀しさ苦しさを

お道化て

追いやってみたいのだけれど

昨日という日が天気だったか

忘れてしまうほどのぬかるみは

「白痴群」の状況そのものだったのかもしれません。

 

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