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末黒野

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蛙 声

 
天は地を蓋(おお)い、
そして、地には偶々(たまたま)池がある。
その池で今夜一(ひ)と夜(よ)さ蛙は鳴く……
――あれは、何を鳴いてるのであろう?

その声は、空より来(きた)り、
空へと去るのであろう?
天は地を蓋い、
そして蛙声(あせい)は水面に走る。

よし此(こ)の地方(くに)が湿潤(しつじゅん)に過ぎるとしても、
疲れたる我等(われら)が心のためには、
柱は猶(なお)、余りに乾いたものと感(おも)われ、

頭は重く、肩は凝(こ)るのだ。
さて、それなのに夜が来れば蛙は鳴き、
その声は水面に走って暗雲(あんうん)に迫る。
 

▶音声ファイル(※クリックすると音が出ます)

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ひとくちメモ

1937年5月14日に作られた二つの詩

「蛙声」と「初夏の夜に」。

「初夏の夜に」は

「生前発表詩篇」ですが、

「蛙声」は、

「在りし日の歌」の掉尾(とうび)を飾っています。

「在りし日の歌」には、

「後記」が巻末に置かれていますが、

作品としては

「蛙声」が最後尾=アンカーにあるのです。

第一詩集「山羊の歌」の

掉尾を飾る作品「いのちの声」に

詩人が与えたのと同じような役割が、

ここにも期待されていることは

想像するに難(かた)くはありません。

ですから、

「蛙」(かえる)には、

詩人が擬(ぎ)せられている、と

解するのが、

この詩を、

素直に鑑賞したということになるはずです。

天蓋(てんがい)という言葉があります。

仏像などの頭上に懸垂された蓋を指し、

転じて、

貴人の頭上を守る傘という意味の仏教の言葉です。

中原中也は、

その言葉を連想させようとしているのか

わかりません。

また、

抜山蓋世という四字熟語があります。

中国の史書「史記」の中で

楚の項羽が

漢の劉邦に包囲される場面で、

愛姫・虞美人と

最期の酒を交わした時に歌った詩として

全世界に知られていますが、

これを中原中也が念頭に入れているのか、

また、わかりませんが、

天は地を蓋(おお)い、

その地には、たまたま池があり、

その池で今夜も蛙が鳴いている

あれは、何を鳴いている、

何を歌っているのだろう、と

蛙の歌の中身へと読者を誘い……

蛙すなわち詩人を登場させるのです。

ですから、

第3連の、

よし此の地方(くに)が湿潤に過ぎるとしても、

疲れたる我等が心のためには、

柱は猶(なほ)、余りに乾いたものと感(おも)はれ、

この3行が

中原中也の詩の社会性、

ほとんど省みられることのない

中原中也の

社会的関心の表明

社会の動きへの眼差しであることは見失われ、

だれも気づこうとしません。

「それにしても私は憎む

対外意識にだけ生きる人々を。」

(「修羅街輓歌」)などにより

中原中也という詩人は

いつのまにか、

政治嫌いのレッテルを貼られたまま定着し、

ノンポリ詩人として

早合点される傾向が支配的です。

この3行は、読まれもしません。

詩人自身、

頭は重く、肩は凝るのだ。

と、相変わらず、

真意を韜晦(とうかい)し、

政治的関心なんぞ、

てんでありません、

と言っている振りをしていますから

読者はますます、

真意から遠ざかります。

これは目くらましです。

この目くらましに気づかねばなりません。

逆に言えば、

第3連のこの3行は、

中原中也の政治への発言、と

言ってもよいほどの詩句、と

解するのが妥当です。

にもかかわらず、

「蛙声」全体には、

文也の死を悼む響きがにじみます。

そのように捉えることのほうが自然な

ダブル・ミーニング、トリプル・ミーニング。

そこに、この詩の卓抜さはあります。

「いのちの声」の有名なフレーズ、

ゆふがた、空の下で、身一点に感じられれば、万事に於いて文句はないのだ。

の、そのものズバリ、モロ直球とは

異なった詩境がここに開かれました。

その卓抜さです。

最終連冒頭行の、

頭は重く、肩は凝るのだ。

は、実際、詩人を襲っていた

神経の病と繋がっているようで

作品の中の韜晦とは別次元の

リアルなものだったのかもしれませんが

「このくに」が

まもなく盧溝橋事件をフレームアップし

やがて15年戦争へとひた走ってゆく時代の

前夜状況を映しているところを

見ないでは済まされません。

 

 

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