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末黒野

中原中也全詩集

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中原中也詩集

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蒼ざめし我の心に

 
君知るや、廃墟の木魂(こだま)……
低空に、砂埃(すなぼこり)して
中空に、かなしくはとび、
大空に、消えもやするや

我は知る、人間の心労を!
我は知る、喜びを、かなしびを
我は知る、額の汗を、
不時の災難を、我は知るなり!

嘗(かつ)て、母に仕(つか)えたりし娘(こ)よ、
台所の響きよ、野仕事に疲れし男よ
それら今日、いかにかなりし……
森の木末(こずえ)の、風そよぐのみにして

ああ、忘れよや、わが心、廃墟の木魂……
忘れよや、森の響きを、
忘れよや、物の響きよ、
忘れよや! 空の思いを…… 
 

▶音声ファイル(※クリックすると音が出ます)

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ひとくちメモ

中原中也は、 

1932年8月に、

荏原郡馬込町北千束621(現・大田区北千束2

に転居しましたが、

この頃の精神状態は

「詩人の魂の最大の惑乱時代」と

親友・安原喜弘に書かせるような

危機のさなかにありました。


原因は

「山羊の歌」の出版交渉がうまくいかず

出版そのものが

危ぶまれるほどだったからなのではありません。


「(略)私達は足繁く麻布の方にある美鳳社という印刷屋の店に通った。二人とも商人との交渉にはてんで能無しであった。帰途は遥かに見える下町の灯を望んで麻布の坂

を降り、彼の鬱憤は夜とともに益々激しく爆発するのであった。」


と、安原は、

中也からの823日付け金沢発の絵はがきに

コメントを加えていますが(「中原中也の手紙」)

これを書いた昭和16年(1941年)から

35年後の昭和51年(1976年)になって

「訂正」を発表します――


「この時の中原の魂の動乱が、詩集の出版が思うにまかせなかったことが原因だというのが、いまでは一般的な説明となって流布されているようだが、これは違う。中原は詩

集の印刷にとりかかる前も、印刷中も、その後も、詩集のなりゆきにに対してはそれほど神経質ではなかった。達観していたともいえるだろう。彼の精神は、そんなに弱くはな

かった。(略)この時期、彼の心の中には、もっとほかの何かが、根強く渦まいていた。この時、彼の親しい友人たちも多くは彼を避け、あるいは不仲となり、このような彼を身

近に見た人はきわめて少ない。私の記憶するかぎり、印刷ができあがってからは、詩集の話はほとんど彼の口からは出ていない。彼の口にするのは、離反した友人たちの

名であった。」(同書所収「中原中也のこと」)


「白痴群」の解散以来

友人関係も先細っていて

詩集発行が進行中のこの年にも

親しい友人たちは冷淡だった

そのことが詩人を神経衰弱に追い詰めた、と

安原は言わんとしているようです。


このピンチの時期に

「蒼ざめし我の心に」は

書かれました。


廃墟にこだまするものを

あなたは知っているか?

低い空に、砂ぼこりが立ち

中空に、悲しく飛び

大空へ、消えてゆくのであろうか


わたしは知っている

人の心が疲労することを!

わたしは知っている

人の喜びを、悲しみを

わたしは知っている

人の額の汗を

突然やってくる災難を

知っている!


かつて母に従順だった娘よ

台所に満ちていた色々な音よ

野良仕事で疲れた男よ

それらは今どうなってしまっただろう

気がかりだ

森のこずえには

風が吹いているばかりなので


ああ

忘れてしまえ、

わたしの心、

廃墟にこだまする……

忘れてしまえ、

森の響きを

物の響きを

空の思いを


詩人に聞こえる

あらゆる物音が

詩人を苦しめ、

廃墟の木魂同然に

生気がなく、

不安ばかりをつのらせました


「(略)家も木も、瞬く星も隣人も、街角の警官も親しい友人も、今すべてが彼に向い害意を以て囁き始めたのである。(略)」


と、先の絵はがきから1月後に届いた

923日付け大森北千束発はがきについて

案内する中で

安原は説明を加えています。

 

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